2019 統合報告書

CEOメッセージ

3つのフィールドでソリューションを提供し、未来の社会を支える会社になります。

鈴木 純
1958年、東京都生まれ。1983年に当社入社、医薬品の研究開発に携わる。帝人グループ駐欧州総代表を経て、2012年4月、帝人グループ執行役員、マーケティング最高責任者。2013年4月、帝人グループ常務執行役員、高機能繊維・複合材料事業グループ長、同年6月に取締役常務執行役員。2014年4月、代表取締役社長執行役員 CEOに就任。

「環境価値」「安心・安全・防災」「少子高齢化・健康志向」

「未来の社会を支える会社」とは

一企業が社会を「支える」会社となるためには、まず自社の足腰が強靭でなければなりません。つまりしっかりと利益を出し続けるということです。そして「社会を支える」とは、社会がクリティカル(重大)に求めるものを提供する、ということでしょう。例えば、少子高齢化社会にあって、最後の日まで健康にQuality of Lifeを享受することは、人々の切なる願いです。また、地球の「環境」が破壊され、社会における「安心・安全・防災」が脅かされては、人々のQuality of Lifeは成り立ちません。帝人の企業理念であるQuality of Lifeの向上とは、いうなれば 「Quality of Life for the Globe, Society and Human」に貢献するということです。「環境価値」「安心・安全・防災」「少子高齢化・健康志向」の3つは、まさにSDGs(Sustainable Development Goals)が掲げる課題の中で、帝人の強みを活かしうるフィールドです。これらのフィールドで未来の社会が求めるソリューションを提供していくことが、帝人グループのサステナブルな利益創出につながると考えます。

帝人グループが提供するソリューション

私たちが社会に提供するのは製品にとどまりません。サービス、システム、プラットフォームなどを含むソリューションを提供します。私たちの道具箱には、マテリアル、ヘルスケア、ITの3つの事業領域に関する技術や知識、経験といった強みが入っています。社員がこれらの道具を磨き、進化させ、ときに組み合わせ、駆使しながらソリューションを提供しています。また、現在進めているマテリアル事業のポートフォリオ変革は、コモディティ化した製品や用途から、クリティカルで高付加価値の製品やサービスへの転換が大きな方向性です。景気減速によって総需要が低減する局面になっても、高付加価値品への置き換えは、社会や顧客から必要とされます。例えば、自動車の総需要が減少する局面になっても、燃費改善の必要性から、重たい材料を、強くて軽い繊維強化樹脂へ置き換える需要は拡大すると思います。そのような、市況の影響を受けにくい事業ポートフォリオが帝人グループの目指すところです。

「環境価値ソリューション」では、自動車や航空機の軽量化を目的とする、金属から強くて軽い高機能繊維・複合成形材料・部品への置き換えを進めています。自動車業界では2017年に北米最大の自動車向け複合成形部品メーカーであるCSP社を買収してTier1ポジションを獲得しました。続いて、2018年には欧州のTier1であるポルトガルのイナパル社を買収しました。CSP社のフランス拠点に商用生産機能を追加、また、中国合弁会社CSP-Victall社に第二工場を追加することを決定し、欧州、中国でも生産能力を拡大することで、自動車向け複合成形材料事業のグローバル展開を進めています。自動車用の複合成形部品で2020年900百万米ドル、2025年1,500百万米ドル、2030年2,000百万米ドルの売上を目標としています。航空機の軽量化では、帝人グループは炭素繊維と熱可塑性樹脂を使用した中間材料のトップランナーであり、織物基材や熱硬化性中間材料のラインナップも追加しています。中長期的に炭素繊維の供給者から中間材料の供給者へと軸足を移すことで高付加価値化を進め、2030年近傍には航空機用途で年間900 百万米ドル超の売上を目指しています。

事業ポートフォリオ変革 ー 各事業の位置付け ー

アラミド繊維を用いた消防服や防弾着は、強くて軽く、かつ、動きやすい性能を持ち、「安心・安全・防災ソリューション」として社会に貢献しています。社会インフラである光ファイバー用途のアラミド繊維需要は、新興国を中心に拡大しており、こちらも強さと柔軟性を兼ね備える性能が、金属などからの代替理由となっています。アラミド繊維や炭素繊維で補強した木材(Advanced Fiber Reinforced Wood)は、木のぬくもりと耐震性を両立させ、かつ空間利用の自由度を増す画期的な製品です。また、大規模地震時の被害を軽減する超軽量天井材「かるてん」は、震災復興プロジェクトを通した帝人グループのソリューション思考から生まれました。

「少子高齢化・健康志向ソリューション」では、骨関節・呼吸器・循環器代謝領域での医薬品や在宅医療機器、人工関節などに加えて、介護保険や保険外のケアサービス、健康食品素材にまで展開する新規ヘルスケア事業を推進しています。帝人ヘルスケアの独自性は在宅医療プラットフォームを持つことであり、24時間対応のコンタクトセンター、訪問看護ステーション、バイタルリンク (チーム医療の情報共有システム) などを擁しています。このプラットフォームを未病から医療、リハビリテーションや介護まで拡大すること、また、ITの技術力を最大限活かすことで、高齢化社会において重要となる地域ネットワーク型の医療支援、患者支援の力強いパートナーとなることを目指しています。

想像力こそ未来へのエンジン~Think Human Project~

私は想像力を思いきり働かせることが、仕事の第一歩だと考えています。人も会社も、想像すらできないものには向かいようがないし、実現もできないからです。裏を返せば、想像したことはいつか実現できる。製品ひとつにしても消費者側の立場に立ち、「『こんなものがあったら便利でいいな』を想像してほしい」と社員に伝えています。その上で、「今の商品やサービスに何が欠けていて、何をブレークスルーしたらたどり着くのか」という発想になれば、ビジネスは面白くなると思います。

100周年を迎えた昨年、未来の人間がどんな「Quality of Life」を求めるのかをテーマに取り組んだのが、「Think Human Project」でした。「人間らしさ」「繊維」「感性」「加齢」「環境」「住空間」「食」「移動」「超高齢社会」という9つのテーマでプロジェクトを立ち上げ、各プロジェクトに社員のリーダーを据え、また社外の方、それもとびっきりエッジの立った方にパートナーになっていただきました。未来の社会、未来の技術、未来の人々という「見えないものを見る」試みでした。

渋谷ヒカリエでのアウトプットをご覧になって、「まるでSFの世界ですね」と多くのお客様から言われましたが、それこそ狙ったところです。SFの世界で作家が空想したことが、想定より早く現実となることを、誰もが実感し、今後はますます早まると予感しています。AIの発展がその代表例ではありませんか。私は、社員が想像力を未来へ向かうエンジンとして欲しいと考えています。

SDGsと一体化した事業目標

帝人グループは、「人権」「労働」「環境」「腐敗防止」について10の原則を掲げる「国連グローバル・コンパクト」を支持し、参加しています。また、帝人が取り組む3つのフィールドは、国連が掲げるSDGsのフィールドと重なります。もちろん、全世界が2030年までに解決することを国際目標としたSDGsのレベルは、現時点から見ればずいぶん高いハードルに感じます。それでも、「未来の社会はこのハードルを乗り越えるであろう」と、人間の英知を信じるところから全てが始まるのでしょう。帝人グループでは環境負荷低減の2020年度目標に向かって歩みを進めてきましたが、現在、2030年度目標を検討しています。また、気候関連財務情報開示タスクフォース (TCFD) の提言への支持を表明し、経済産業省、金融庁、環境省が推進する「TCFDコンソーシアム」に参画しました。将来の目標をはっきりさせることで、実現への道筋が見えると考えています。

帝人グループでは現在、約20,000人の従業員が日米欧アジアの各拠点で働いています。そのうちnon-Japaneseは過半数を占めており、人財のグローバル化が急速に進んでいます。多様な人財が帝人グループを支え、グループ発展の原動力となっているのです。本年4月1日には、カローラ・ヤプケがチーフHRオフィサー(CHO)に就任しました。Non-Japaneseとして初めてのCHOです。多様性がプラスの力となるまでには、摩擦が起きることも多々ありますが、これを乗り越えた組織は強い。私はヤプケが、この多様性をさらなる帝人の強みとしてくれると期待しています。

コーポレート・ガバナンスについては、実効性が重要だと考えます。帝人の社外役員は、経営に対する「ブレーキ」役のみならず、ときに「アクセル」役となり、企業価値向上に大きな役割を果たしてくれています。近年、投資家の皆様がコーポレート・ガバナンスをより一層重視される状況下、投資家の皆様との対話を通し、当社ガバナンスの実効性を、より分かりやすく説明するとともに、適切な情報開示に努めてまいります。

現中期経営計画: これまでの2年間の振り返りと2019年度の見通し

2017年度からスタートした「中期経営計画 (2017-2019) ―ALWAYS EVOLVING―」では、私たちが10年後 (2025年頃) に目指す姿=長期ビジョンの実現に向けて、ポートフォリオ変革を進めてきました。2025年頃には、マテリアルとヘルスケアの2大事業領域を維持しつつ既存事業のみならず、計画策定時 (2016年度) には利益貢献していなかった新規事業も利益の柱となっていることを目指しています。具体的には、マテリアル事業領域ではモビリティを中心とした複合成形材料・部品ビジネスが新しい柱として加わり、ヘルスケア事業領域では非保険領域にまで広げたヘルスケアのプラットフォームに各事業が載り、有機的につながるイメージを描いています。

現中期計画の経営目標としては、ROE10%以上、EBITDA1,200億円超を掲げました。初年度の2017年度はROE12.5%、EBITDA1,155億円と、順調に推移しました。一方、2018年度は連結売上高8,886億円、営業利益600億円、ROE11.2%、EBITDA1,076億円との結果で、EBITDAの拡大に課題を残しました。原因の一つは、CSP社の生産性が一時的に悪化したことですが、年度末までに歩留まりは回復しています。次の新製品立ち上げの投資を継続しつつ、次期中期期間の早い時期での利益貢献を目指します。

新規事業育成への投資をしっかり進めるためには、既存事業も成長して、確実に利益をあげなければなりません。そこで、既存事業においても、市況変動の影響を受けにくい高付加価値製品へのシフトを進め、基礎収益力の強化を図っています。ポリカーボネート事業では、2018年度下期に急激な市況悪化を受けましたが、その影響を最小限にとどめることができました。

中期経営計画2017–2019「 ALWAYS EVOLVING」

現中期計画の最終年度となる2019年度は、米中貿易摩擦の事業への直接的・間接的影響や、ポリカーボネート市況のさらなる悪化を注視する必要があります。また、ヘルスケア事業では海外におけるフェブキソスタット (国内商標フェブリク) の収益減少を見込んでいます。一方、アラミド事業をはじめとするマテリアル事業、国内でのヘルスケア事業の増収増益により、売上高は前年度比1.3%増の9,000億円、営業利益は前年度比で横這いの600億円と見込んでいます。また、親会社株主に帰属する当期純利益は、前年度に計上した税効果が減少する影響もあるため410億円と、前年度比で約9%の減益となる見通しです。その前提による経営指標の見通しは、ROE10%、EBITDA 1,150億円であり、EBITDAは中期計画目標をやや下回りますが、実行段階での計画達成を目指していきます。

2025年に目指す姿へのプロセスとして、現中期計画は特に新規ヘルスケア事業で大きく未達の状況である一方、投資資金は予定枠を1,000億円程度残しています。M&Aについては常に機会をうかがっていますが、資金を有効に使うべく、規律ある投資が必要であると考えています。2019年度および次期中期計画期間における課題として、引き続き検討を続けていきます。

  • 2019年度見通しは、2019年8月2日時点のものです。

終わりに

鈴木 純

帝人グループの次なる100年は、人を中心に考え、未来の人々のQuality of Lifeにソリューションを提供し続ける旅となるでしょう。私たちは、皆様から「未来の社会を支える会社」と認めていただくことを目指して、新たな一歩を踏み出します。