特集 独立社外取締役によるガバナンス座談会

さまざまな分野で活躍される4人の独立社外取締役に、テイジンのコーポレート・ガバナンスの現状と課題、さらには真のグローバル企業として何をしていくべきか、語り合っていただきました。(敬称略)

プロフィール
飯村 豊
1969年外務省入省。2002年日本国特命全権大使インドネシア国駐在、2006年同フランス国駐在。2009年より日本国政府代表(中東地域および欧州地域関連)。2011年より当社社外取締役。
関 誠夫
1970年千代田化工建設株式会社入社。2001年同社代表取締役社長、2007年同社取締役会長。2012年より当社社外取締役。
妹尾 堅一郎
1976年富士写真フイルム株式会社(現 富士フイルム株式会社)入社。2001年慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授。2004年より特定非営利活動法人産学連携推進機構理事長。2012年より当社社外取締役。
大坪 文雄
1971年松下電器産業株式会社(現パナソニック株式会社)入社。2006年同社代表取締役社長、2012年同社代表取締役会長、2013年より同社特別顧問。2016年より当社社外取締役。

テイジンのコーポレート・ガバナンス体制や運用状況についてどう評価していますか?

関:
2015年は「コーポレート・ガバナンス元年」と言われました。多くの企業がガバナンス強化に向けて動き始めている中で、テイジンのガバナンス体制は、すでにその考え方を先取りして制度に組み込んでいたため、従来から運用していた「コーポレート・ガバナンスガイド」を訂正することもほとんどなかったと認識しています。
飯村:
テイジンは20年も前からアドバイザリー・ボードやトータル・リスクマネジメント(TRM)、コンプライアンスのシステムなど独自の制度を導入しています。欧州のビジネスマンと話す機会があり、テイジンのガバナンスについて意見を聞いてみたのですが、彼らの目からみても、テイジンの制度はとても魅力的に映っているようです。
関:
テイジンの取締役会の運営についても、社外役員に対する事前説明がとても丁寧であり、また監査役も含め自由闊達に意見を述べられる空気を感じます。
大坪:
私は2016年の株主総会をもって、初めてテイジンの社外取締役に就任しました。初めての取締役会に出席して感じたことは、まちがいなく、自由闊達な議論がなされる雰囲気であることです。決まったシナリオに則って取締役会を進めるというふうな雰囲気は一切ありませんでした。
妹尾:
テイジンの社外取締役の構成は、とてもバランスがとれていますね。実業界の経験を持つ人、官僚の世界を知る人、そして私のような社会・ビジネス系の研究者。そうした人たちのさまざまな意見を受け入れようとする積極的な姿勢が強く感じられます。
飯村:
取締役会では、短期から長期の戦略に至るまで、相当突っ込んだ議論が交わされています。どこの企業でも何かしら問題を抱えているわけですが、テイジンは自社の問題を明らかにして、きちんと議論をするスタンスがあると思います。その意味では「仏を作って魂も入れているガバナンス制度」ではないかと感じています。
関:
また、テイジンのアドバイザリー・ボードは、取締役会の諮問機関としての実効性もきわめて高いと思います。年に2回の会合は合宿形式で、朝から晩までみっちり議論をしています。
飯村:
アドバイザリー・ボードは、将来の幹部候補生と徹底的な議論をする機会も担っています。そこでは、全てのやりとりが英語で行われるので、幹部候補生たちにとって「トップが国際人でなければならない必然性」を強く感じとる場になっているのではないでしょうか。
妹尾:
確かに役員、幹部の方々にとって格好の学習の場、育成の場にもなっているように思います。このような制度的な運用のうまさは、テイジンの今までの歴史によって培われたものではないかと感じています。

飯村:
テイジンのようなグローバル企業が成長を持続させていく上で、強固なガバナンスは確かに不可欠なのですが、結果として業績にも結び付くものでなければ意味がありません。そこは認識しておかないといけないですね。
妹尾:
ガバナンスを強化するために、どの企業もコンプライアンスの遵守や、リスクマネジメントの強化に取り組みます。ただ、これが過ぎるとリスクを冒さなくなる。企業は本来、常に社会に新しい価値を提供し、それを通じて利益を生み出すことが使命であるはずで、ガバナンスを意識するあまり、ブレーキをかけすぎてもいけない。そのバランスが大切です。
日本でいう「取締役」は、欧米では「Director」、つまり経営の方向付けをするのが役目です。私は、どうやれば事業を先へ展開することができるかといった中長期の戦略についてもっと議論を深め、アドバイスをしたい。そのためには時に辛辣な物言いになっても構わないと思っています。周囲が躊躇していると感じる時に敢えて背中を押し、逆に浮かれて暴走しそうな時には止める、そういう役割を我々社外取締役は担っていると考えています。
関:
ビジネスが複雑化・多様化する中で、取締役会に求められる意見や判断に対する期待値も高まっており、深い議論が求められています。ただ、私自身はあえて「そもそも何故こうなっているのか」といった素朴な見方で、意見をぶつけてみたりもします。時として空気を読まないことも、社外取締役にとって大事なことだと思っています。
一方で、取締役会では社内の取締役の発言がむしろ控えめではないかと感じています。取締役会以前のステージですでに議論を尽くしているからかもしれませんが、そうした議論も社外取締役と共有できると、もっと実効性が上がるのではないでしょうか。
大坪:
経営の方向付け、監督機能、アドバイス機能など、取締役に求められる役割は多くありますが、我々に求められているのは、こうした役割を果たすことでテイジンの企業価値を高めるということに尽きると思っています。そのためには、特に中長期的な会社のあり方、戦略の枠組み作りが重要で、私たちは、全体的、俯瞰的、マクロ的な視点を持って臨むことが必要だと考えています。
一方で「神は細部に宿る」という言葉がありますね。神が宿る細部、すなわち執行側の方々が示す個別・具体的な計画、成功に向けた詳細なシナリオ、革新性といったものが、中長期に向けた全体としての計画にどう結び付いていくのか、問題意識を持ってみていくことも肝要だと思います。

グローバル企業として成長を続けていくために、テイジンが配慮しなければならない点は何だと思いますか?

妹尾:
取締役会で、私はよく「『成長』したいのですか。それとも『発展』を目指すのですか」と質問します。成長(growth)という言葉は既存モデルによる量的拡大、すなわち既存モデルを磨き、改善して業績を良くしていくことです。他方、発展(Development)は、例えばサナギがチョウになるといった、新たなステージに変革することをいいます。
テイジンは現在、従来のビジネスモデルを改めて問い直すべき時を迎えていると思います。成長させるべき事業は徹底的に成長を、新陳代謝を経て次へ発展させるべき所は発展させる。その見極めが重要なのです。成長するために構造改革を進め、発展するために新たな事業を創造しなければならない。今はその生みの苦しみの時期だと感じています。テイジンには高い技術力があるのですから、ビジネスモデルの工夫次第でこれをもっと活かせるはずです。
関:
「構造改革」「発展戦略」を同時に進めながら継続的成長と企業価値の向上を目指すのは、今やどの会社も同じです。直近のテイジンは、いろいろ痛みも伴った一連の構造改革施策をほぼやり遂げ、発展に向けた舵取りを強めながら、この両輪を平生から計画的に機能させられる段階にあります。また日系企業は総じて同じビジネス領域で似通った戦略を志向しがちですが、これからは各社ごとの違い・特徴が顕著になってくるのではないでしょうか。当社も目指す「ソリューション提供」というメガネを通して、改めて自分の足元や外の世界を見直すと、さまざまなところに従来とは違う大きな可能性のある領域がみえてくるはずです。これを社外に向けてアピールすることも必要ですが、さらに大切なのはこの考え方自体を社内に向けて浸透させることです。社内の若い人たちが精力的に勉強して、新しいことに挑戦しないと、発展戦略につながる新しいビジネスの種も発現しません。
またグローバル企業という視点では、いくつか見直し・強化が必要になってくるポイントがあると思います。一つは技術に対する考え方です。さまざまなソリューションの創出源として活用できるよう、例えば不採算事業は整理・撤退しても、培ってきた大事な技術はしっかり温存し、使えるような形に整えて蓄積しておくことも必要です。そして拡大する世界の拠点に合わせて顧客に密着したビジネス展開を効率的に行うためには、業務遂行・管理の基幹システムもそれ相応に見直す必要があるはずです。最後に法務面の強化も挙げておきたい。グローバルに高い成長性を誇る企業には、その背後に法務部門の強力なバックアップがあります。事業提携やM&Aにしても、契約締結に関する迅速な対応や強い交渉力が成功の鍵を握ります。
飯村:
真の意味でのグローバル企業として発展していくためには、新しい時代に適応している人材を、組織としてきちんと保有することがとても重要です。私がかつて身を置いた官僚組織でも、テイジンのような企業組織でも、その点は同じです。テイジンの社員の方々は、もっと外に向けて積極的に打って出てよいのではないかと思います。外部の人々と積極的に関わり、グローバルな人的ネットワークを作り上げていく力を養い、グローバルな情報収集力を身に着ける努力をすべきです。高いアンテナを立てて情報収集する能力だけでなく、国際間では立場や考え方が違うのは当然であり、そうした中では説得力・交渉力も大切です。先ほど関さんが言われた法的な側面もそうですが、きちんとした交渉をできるかどうかが鍵を握っているのです。この点については、私自身、第一線で活躍する若い方たちともう少し接点を持って、第三者の視点からアドバイスをしたいという気持ちも持っています。
大坪:
国内の事業所をいくつか訪問し、各々の事業担当の役員、事業所の責任者の方とさまざまなディスカッションをしました。そこで印象深かったのは、皆が拠点の歴史や事業に高いプライドを持ち、その事業の将来に対する課題も深く認識されていることでした。ただ、こうした優秀な方々をもってしても、素材、IT、ヘルスケアという組織の壁を破ってそれぞれの事業を融合させ、新しい事業を創り出すというのは、これは本当に至難の業です。私もパナソニック(株)の社長時代には、身をもってそのことを経験しました。
事業を越えた融合というコンセプトの重要性はもちろん理解しますが、一方で自らの事業を成長させようという現在の各事業のマインドを削ぐものであってはなりません。事業間をいかにつなぎ、コンセプトから具体性をもって日々の経営判断にまで落とし込んでいけるか、また新領域でのリスクテイクを全社として後押しする制度・仕組みを作っていけるか。難しい課題ですが、私の経験から少しでも有用なアドバイスをさせていただければと思っています。
妹尾:
世界で今起きている化学産業の統廃合の流れの中でも、単に事業規模で競争するのではなく、ITも含めたテイジンの特徴を強み化するために先導性のあるビジネスモデルを工夫することが重要です。そのためにも、“新しいグローバル企業像”を提示していくことが必要です。今後も我々が社外の観点からアドバイス・貢献できる部分は少なくないと思っています。

鈴木CEO からのコメント

テイジンは、1990年代よりアドバイザリー・ボードをはじめとするガバナンス制度の改革に取り組んできました。社外取締役の導入も2003年に遡りますが、これまでに実施したさまざまな改革の成果がガバナンスの向上に寄与しているのを改めて感じます。

一方で今回の社外取締役の方々のご指摘にもあったように、ガバナンス制度の充実は、将来に向けた持続的な成長につながっていかなくては意味がありません。これまでにも社外取締役の方々からは、さまざまな議論を通じて有益なアドバイスをいただいてきましたが、今後さらに多様な視点から議論を深め、取締役会の実効性をより高めていきたいと考えています。