Section2: Sustainability Platform

コーポレート・ガバナンス対談

鈴木CEO × 大坪社外取締役

実効性の高いガバナンスが、経営の透明性向上と、グローバルに勝ち抜く執行を後押ししています。

(左)鈴木 純 代表取締役社長 執行役員 CEO
(右)大坪 文雄 社外取締役 (パナソニック株式会社 特別顧問)

帝人ガバナンス体制の特長

鈴木 当社のコーポレート・ガバナンスが大きな転機を迎えたのは1999年です。執行役員制度の導入、アドバイザリー・ボードの設置、社外監査役の登用といった改革を行いました。2003年には社外取締役にも加わっていただき、現行体制の監査役会設置会社に至ります。現在の役員数は取締役9名(社内5名、社外4名)、監査役5名(社内2名、社外3名)の14名です。

今から20年も前に、経営諮問委員会として、CEOや会長職の指名・報酬諮問機能を有するアドバイザリー・ボードを設置するなど、先駆的なガバナンス体制をとってきたと自負しています。

大坪 社外取締役から見ても、帝人が先進的なコーポレート・ガバナンスの取り組みを行ってきたことは事実だと思います。一方で、2015年にコーポレートガバナンス・コードが制定されるなどの環境変化に対応し、他社の進化のスピードも速い。現状で満足せず、帝人もさらに進化しないといけません。他方、帝人の特徴として、企業理念を分かりやすく打ち出し、社内外に発信している点があります。ガバナンスというのは広い目で見れば、企業理念に則り執行されているかを効率良く、戦略性と倫理観を持って監督・チェックすることです。その意味では、企業理念を明確にし、徹底して理念の実現を追求している当社はガバナンスが効きやすい。だからこそ100年続く会社になったと感じています。

取締役会がもたらす経営への効果

鈴木 当社が考える取締役会の役割とは、会社の執行をモニター(監督)するだけでなく、ときにコーチングやアドバイスも行うというものです。取締役会の議案は、「方針審議案件」「決定案件」「報告案件」の3種類あります。執行側がまず、案件の方向性や大枠の方針を提示したものを「方針審議」し、必要なアドバイスを与え、次に最終的な提案を受けて「決定」し、執行に移行したあとには適宜「報告」を受けます。それらが複数の案件で同時並行的に進むので、取締役会の出席者は質問や指摘を山のようになげかけます。その内容も株主へのリターンを大きくすべきという話から、当社の社会的な意義まで実に幅広い。取締役会の時間も平均4時間と長く、株主総会のような緊張感が常にあります。私自身、月に一度の取締役会が怖いくらいです(笑)。

大坪 社外取締役就任後、初めての取締役会に参加して印象的だったのは、自由闊達さです。あらかじめ手順が決められ、それに従って滞りなく進む形式的な会議ではなかった。極めて実効性の高い取締役会だと感じました。

鈴木 さらに重要案件は三重の審議が行われるのも、当社の特徴です。

大坪 例えばM&Aの意思決定や、中期経営計画の立案など、大きな案件は計画の初期段階から取締役会で情報が共有されます。それをマクロ経済的な視点、地政学的な視点、実務的な視点、人財の視点など、さまざまな視点から徹底的に議論します。それを受けて、執行側が挙げてくる方針を審議するのが2回目です。M&Aであれば、アプローチ手法や資金準備などの具体策が審議されます。2回目の審議を経てまとめられた実際の計画を審議するのが、3回目の最終決定の場になります。審議を重ねるごとに議論の焦点が絞り込まれるわけです。

鈴木 当社の場合、社外取締役が意思決定のブレーキだけでなく、ときにアクセルも踏んでくれます。例えば執行側がM&Aの投入資金のアッパーリミットを設定したとしても、その会社がどうしても必要であり戦略的にも合致していれば、「投入資金を増やしてでも必ずM&Aを実現すべき」と後押しをしてくれるケースもあります。

大坪 我々がアクセルを踏めるのは、帝人の経営の透明性が高いからでしょう。取締役会で審議・報告される事項の多さもさることながら、各案件の資料の量も本当に多い。事前に読み込むのに相当の時間を要します。でも読まないと議論に参加できないわけです。社外役員の方々の質問や指摘を聞いていても、皆さんしっかりと資料を読み込まれていると感じますね。就任当初は取締役会のたびに分厚い資料と格闘していました。

鈴木 社外監査役の方も社外取締役の方と同じ立場で資料を読み込んでいただき、ご理解された上でご意見してくださっています。監査役会設置会社の利点を最大限に活用しているわけです。取締役会の出席者は、監査役を含めると社内7名、社外7名の合計14名とバランスが取れている。しかも議案を多数決で決めることはほとんどありません。全員で徹底的に議論し、どうしても引っ掛かりが残る場合には次回の取締役会に持ち越してでも、腹落ちする決定を優先します。

経営の透明性を向上させるアドバイザリー・ボード

鈴木 純 代表取締役社長 執行役員 CEO

鈴木 アドバイザリー・ボードのメンバーは、外国人有識者2名、社外取締役4名、当社相談役、CEOの合計8名です。開催は春と秋の年2回。目的は大きく3つ。広い見地に基づく経営への助言、CEOの業績評価や報酬額提案、そして次期CEOの選任です。アドバイザリー・ボードには決定権はなく、議論した結果が取締役会に提案されます。

アドバイザリー・ボードが生まれた背景には、CEO個人や経営幹部の思惑による人事執行への強い危機感がありました。特にCEOの在任年数が長くなればなるほど、人事に対する影響力も大きくなりがちです。そこでアドバイザリー・ボードというチェックシステムを導入したわけです。

大坪 経営への助言という意味では、外国人有識者はアメリカ化学会のエグゼクティブディレクター/CEO や、著名な大学の教授で、厳しい指摘や適確なアドバイスがあります。また、社外取締役全員がアドバイザリー・ボードのメンバーなので、帝人社内の状況に詳しく、なおかつ客観的な視点での助言が可能です。

CEOの評価も徹底して行います。CEOはまず英語で約90分間、業績に関するプレゼンテーションをします。その後、Q&Aが30分間行われます。全て英語なので鈴木CEOは大変だと思いますが、聞く側も大変です(笑)。アドバイザリー・ボードの開催は半年に一度ですが、参加者は事前資料を読み込むだけでなく、前回や前々回の内容もしっかりレビューしています。そうでないと業績評価なんてできないですからね。

鈴木 私はアドバイザリー・ボードのメンバーでもありますが、アドバイザリー・ボードの指名・報酬諮問機能に関する議案は、社外取締役が議長を務めており、CEOに関する事案の審議には参加しません。自分のプレゼンとQ&Aが終わると、評価の時間は席をはずすことになる。自分の評価を外で待つ時間というのは、本当に長く感じますよ。

大坪 文雄 社外取締役 (パナソニック株式会社 特別顧問)

大坪 業績評価はROEやROICなどの数値基準がありますので、それに準じて行われます。一方、数字では表しにくい内容については、議論を重ねます。だからどうしても長くなってしまいますね。

鈴木 将来のCEO候補者については、単純に「こんな人財がいますよ」という人財プールを見せて選んでいただくのではなく、サクセッションプラン(後継者計画)の段階からアドバイスをいただいています。

大坪 毎回、将来のCEO候補者たちのプレゼンを聞く機会がありますが、大切なのは、プレゼン後の質疑応答に、どれだけ自信と見識を持って答えられるかです。また、1回や2回のプレゼンだけでは分からない部分も多いので、継続的に見る必要があります。選別するこちらも必死ですよ。

鈴木 それくらいやらないと、メンバーも決められないと思います。もちろん私自身、アドバイザリー・ボードからCEOにご推薦をいただくまでに、そのようなプロセスを経ました。

大坪 経営に緊張感を与えるという意味では、アドバイザリー・ボードはよくできた仕組みだと思います。アドバイザリー・ボードはCEOの指名・報酬諮問機能を担いますが、社外取締役はCEO以外の指名・報酬を諮問する「指名諮問委員会」や「報酬諮問委員会」にも参加するので、互いが連携した体制だと言えますね。CEOの評価にしても、CEOだけが突出した評価を受けるはずはなく、CEO以外の役職者への評価とも連動しています。

社外取締役からの提言

大坪 社外取締役である私が今、帝人に必要だと思うことは、現場力の強化です。M&Aにしろ、中計にしろ、初期の計画段階から取締役会で情報共有されるので、何がどのように進んでいるかは良く分かります。当社のプランニング力はすごいものがありますよ。その一方で、プランを実行に移す段階になると、実行力とか推進力の面で物足りなさを感じることもあります。

鈴木 具体的にはどのような案件でしょうか。

大坪 例えば、2017年に米国のコンチネンタル・ストラクチュラル・プラスチックス社(CSP社)を買収したあとの動きです。大型案件がプランニングどおり進むことはまずないものですが、買収後のスピード感がない。実際に現場はどうなっているのか、社外役員で見に行きました。現場で責任者に話を聞くと何が課題なのか良く理解している。このときは米国の移民政策の転換もあり、製造現場で人手が集まらないという事情がありました。それならば解決策も現場から早く出してほしいというのが正直なところです。

鈴木 やはり、社外取締役がブレーキだけでなく、「もっとやれ」とアクセルを踏んでくれるのは本当にありがたいことです。

大坪 徹底した情報共有、オープンで活発な議論、多彩な人財による助言や提案など、当社のガバナンスは形態的にも実質的にもしっかり機能していると思います。もちろん現状に満足してはいけませんけど。

鈴木 肝に銘じておきます(笑)。