研究開発

イノベーション戦略

基本的な考え方

帝人グループは、人を中心に考え、Quality of Lifeを向上させる企業理念のもと、「たゆまぬ変革と挑戦」によって新しい価値を創造し、持続可能な社会の実現に向けてソリューションを提供することで「未来の社会を支える会社」になることを目指しています。「気候変動の緩和と適応」「サーキュラーエコノミーの実現」「人と地域社会の安心・安全の確保」「人々の健康で快適な暮らしの実現」を重要社会課題として設定し、環境貢献に資する自動車・航空機、エネルギー領域におけるソリューション提供を通して「地球環境を守る会社」を、また、希少疾患・難病などのケアが必要な未充足ニーズが高い疾病領域を中心としたソリューション提供を通して「より支えを必要とする患者、家族、地域社会の課題を解決する会社」を目指します。

帝人グループでは、製品・サービスの創造からビジネス構築、そして、利益創出までの一連の活動をイノベーションとして捉え、グローバルな視点で社会のニーズや課題に応えるために、帝人グループならではの総合力と機動力を発揮することを目指しています。

帝人グループ内の研究開発体制については、海外13ヵ所、国内12ヵ所の研究開発拠点からなるグローバルなネットワークを活かし、グループ各社の連携を強化して組織を活性化するとともに、2023年 4月からは、将来投資の領域となる新規事業関連、事業間の協創によるイノベーションの創出を全社横断的に実施するために、各事業統轄下で育成してきた新事業及びコーポレートビジネスインキュベーション部門をコーポレート新事業本部として統合し、多様な人財が能力を発揮してイノベーション創出を加速する仕組みを取り入れています。

また、帝人グループでは、知的財産は企業の競争力の根源となる重要な経営資産であるとの理解の下、経営戦略の実現を目標とした知財活動に取り組んでいます。帝人グループの長期ビジョンを見据えて知財ポートフォリオの最適化を実施するとともに、「環境貢献に資する自動車・航空機、エネルギー分野」、及び「希少疾患・難病などの疾病領域」における競争優位性の確保に向けた知財投資活動を具体化し、推進していきます。加えて、知財情報解析の戦略的活用として、IPランドスケープを経営・事業の意思決定に役立てる取り組みを推進しています。

未来の社会を支えるための技術・市場開発

気候変動の緩和と適応

マルチマテリアル化による製品の軽量化や高耐久化を図るとともに、カーボンニュートラルの社会実現に資する技術開発・研究開発並びに社会実装に向けた検討を行っています。例えば、高強度で軽量な繊維強化プラスチック部材をはじめ、高強度・高剛性タイヤコード、車両用ブレーキの摩擦材に用いる高機能繊維などが挙げられます。また、事業活動に伴う地球環境への負荷低減として、省エネ・再エネ化の推進やプロセスイノベーションなどの技術革新にも取り組みます。

サーキュラーエコノミーの実現

製品の長寿命化を図るとともに、ケミカルリサイクルやマテリアルリサイクルの技術課題に取り組んでいます。環境対応分野に注力した開発拠点である欧州サステナブル先端技術開発センター(ESTIC)では、バイオマテリアルの開発、水素燃料電池に関する研究等に加え、サーキュラーエコノミーに関する研究もグローバルに推進しています。

人と地域社会の安心・安全の確保

震災対策に関連する技術では、コンクリート構造物の耐震補強材として、高強度と柔軟性を兼ね備えたアラミド繊維や炭素繊維の開発を進めています。また、火災から消防隊員を守る防火衣には難燃性に優れたアラミド繊維の製造販売のみならず、IT技術やセンシング技術で熱中症リスクを回避できるスマート消防服など、さらなる高機能化を追求しています。

      

人々の健康で快適な暮らしの実現

患者さんのQuality of Life 向上、新たな治療選択肢の提供につながる医薬品、医療機器、そして付加価値サービスを生み出すために、医薬品と在宅医療のシナジーも生かしながら、積極的な研究開発を行っています。また、ヘルスケア事業との融合領域として骨や再生医療などの分野での研究開発を推進しています。デジタルヘルスケア、機能性食品素材などの分野では、未病~疾病~介護の全てに対応するヘルスケア事業基盤の構築、情報プラットフォームを活用した新規事業の創出に注力しています。

イノベーション創出に向けて

イノベーション創出に向け、研究開発においては、マテリアル、ヘルスケア、繊維・製品及びIT事業を併せ持つ帝人グループの特徴を生かした技術の連携・活用と融合・複合化により、グループとしての総合力・機動力を発揮することを推進しています。加えて、デジタルトランスフォーメーション(DX)についても IoTモニタリング技術、機械学習やAI技術、マテリアルズ・インフォマティクス(MI)による研究開発力の強化を図ると同時に、スマートプラントの推進などによる製造現場の生産性向上など、多様な事業、分野において積極的に取り組んでいます。さらに、専門領域でのビッグデータやデジタル技術利活用についてアカデミアとの共同研究や企業連携を進めることと並行して、それらの成果に基づくマテリアル領域・ヘルスケア領域・IT領域での新たなサービスやビジネスの創出を目指してDX推進部を設置し、AIやIT等の最先端技術の獲得と活用を進めています。

グループ内外の協創で、単独では創出困難な革新的製品・サービスを拡充

  • マテリアル × IT

    高分子技術×マテリアルズ・インフォマティクス(MI)


    モビリティの進化や次世代通信の進展など社会環境が変化する中、それに対応する新しい材料や部材へのニーズを的確に捉えて迅速に提供するために、研究開発においてもデジタルトランスフォーメーション化を進めています。例えば、MIなどの情報科学を取り入れた素材・部材開発を推進し、軽量化・高機能化といった課題に対して、社内に蓄積されたデータのみならず社外の膨大なデータも利用し、社外との協創も取り入れながら新しい価値の創出に取り組んでいます。

  • ヘルスケア × IT

    医療機器×IT


    地域包括ケア領域では、帝人の在宅医療プラットフォーム*にIT 技術を融合し、「人とモノ」「人と人」をつなぐことで健康で快適な人々の暮らしを支える地域密着型プラットフォームの強化に取り組んでいます。そしてさらには、人とモノをつなげるだけでなく、その先のカスタマーにつなぐIoC(Internet of Customers)を目指して、健康・疾病にかかわるデータを活用し、人々が求める疾患の発症予測や重症化予防の製品・サービスの開発を進めています。

    • *2,000人規模の全国営業・サービス網、24時間対応のコンタクトセンター、訪問看護ステーション、多職種連携情報共有システム「バイタルリンク®」等
  • ヘルスケア × マテリアル

    心・血管修復パッチ


    大阪医科大学・福井経編興業株式会社と共同で開発している心・血管修復パッチ「シンフォリウム®」は、当社のヘルスケア事業で培ってきた埋込型医療機器技術に高度な繊維技術と生体適合性高分子技術を融合させた画期的なメディカルデバイスです。心臓手術において心臓や血管壁の患部に心・血管修復パッチをあてがい縫合することで、その一部が患部の生体組織に置換されます。また、伸長性を備えた特徴ある構造のため、成長による再手術リスクの低減が期待されます。臨床試験における主要評価項目の達成を確認し、2023年7 月に厚生労働省より製造販売承認を取得しました。今後、2023年度内での上市を目指すとともに、本製品の海外への事業展開、加えてその要素技術を応用する新製品ラインアップの拡充に取り組んでいきます。

  • ヘルスケア × IT × マテリアル

    生体情報×IT×センシング用材料


    高機能繊維とセンシング技術との融合により、心電や心拍、運動量を高精度かつ連続的にセンシングして可視化できる総合的なウェアラブルソリューションとして「MATOUS™(マトウス)」ブランドを展開しています。医療・健康分野におけるリハビリ、運動による健康増進、スポーツ・トレーニング等への活用や、労働分野における労働負荷低減や技能習得への応用にも取り組んでいます。