研究開発

心・血管修復パッチ

素材技術を埋込医療材料に応用して、先天性心疾患治療の課題に挑戦

先天性心疾患とは、血管の狭窄や心臓内の隔壁の欠損など生まれつき心臓に何らかの構造異常があり、正常な機能が果たせない疾患です。その治療として、パッチ状の医療材料を用いて狭窄部や欠損部を修復し血液循環を正常化する手術が行われますが、多くは新生児や幼児の患者さんです。このような患者さんたちが成長していく中で、埋植したパッチが異物反応によって劣化したり、組織の成長に追随できないことにより、手術部に狭窄が発生し、再手術を余儀なくされる場合があります。このような悩みを解決すべく、大阪医科薬科大学の根本 慎太郎 教授のアイデアである"自分の組織に置き換わることで患者さんの成長に伴うサイズ伸張に対応できるパッチ"の開発に取り組み、製品化を実現しました。

手術の一例(イメージ図)

こどもの成長を考えた設計

本製品は、吸収性の糸と非吸収性の糸で編んだ特殊な構造のニットを吸収性の架橋ゼラチン膜で覆い、一体化させた柔軟なシートです。手術によって心臓や血管に縫着された後に、まず架橋ゼラチン膜が、次に吸収性の糸が徐々に分解されながら、非吸収性の糸を含むように自己の組織が形成されていきます。
福井経編興業株式会社が考案した本製品のニット構造は、独特の編目構造を持ち、手術中の縫合や埋植後の血圧に十分耐えうる骨格として機能します。体内に埋め込まれた後に残る非吸収性の糸は、拡張性のある構造へ徐々に変化する設計となっています。
また、本製品に用いられている架橋ゼラチンは、血液漏れを防ぐコーティング性能と自己組織化を阻害しない性能が両立するよう設計されており、ゼラチンの配合量や配合方法、架橋方法などが工夫されています。細胞との親和性も高く、自己組織化が進む過程で酵素により徐々に分解していきますが、その過程においては過剰な炎症反応や肥厚は見られず、徐々に血管組織に近い構造が構築されていきます(動物試験により確認)。このような自己組織の形成により、課題である異物反応や石灰化などの問題が発生しにくくなることが期待されます。

産官学の強力な連携によって製品化が実現

本製品は、根本教授のアイデアと医療現場の知見に、福井経編興業株式会社の経編技術、そしてテイジンのマテリアル技術とヘルスケア(医薬品・医療機器)技術が融合することにより製品化、事業化が実現しました。開発においては2014年に経済産業省(当時)「医工連携事業化推進事業」、2017年にAMED(*1)「医工連携事業化推進事業」にそれぞれ採択され、さらに2018年には先駆的医薬品等指定制度(旧:先駆け審査指定制度)(*2)にも指定されました。産官学の強い協力関係によって製品化に至った、これからの時代に向けて貴重な事例と言えます。

  1. *1国立研究開発法人 日本医療研究開発機構(Japan Agency for Medical Research and Development)
  2. *2患者さんに世界で最先端の医療機器等を最も早く提供することを目指し、一定の要件を満たす画期的な医療機器等について、薬事承認に関わる相談・審査における優先的な取り扱いを行い、迅速な実用化を図る制度。

心・血管修復パッチ開発の展望

これまで日本国内で販売されている心・血管修復パッチの多くは海外製でしたが、その中で本製品は新たな国産パッチとなります。今後はこの国産医療機器を海外の患者さんにも届けるべく、海外開発に取り組むことを計画しています。また、今回の開発で得た技術や知見を活かし、心臓血管外科領域のみならず、体の組織再建に着目した埋め込み医療機器の研究開発を進めていきます。

心・血管修復パッチに関するお問い合わせ