サステナビリティ

気候変動

帝人グループは、「気候変動の緩和と適応」を重要課題として捉え、軽量化・効率化技術を活かして脱炭素社会への移行に貢献するとともに、事業活動に伴う温室効果ガス排出の削減に努めています。また、2019年3月、「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」の提言に対する支持を表明しており、TCFDに沿って気候変動に関する情報開示を進めています。

ガバナンス

「気候変動の緩和と適応」など重要課題に関する方針は、取締役会における決議事項であり、それらの方針に沿った取り組みは、執行側で管理指標も設定して進め、その対応状況については、適宜、CEOまたは人事・総務/サステナビリティ管掌から取締役会に報告され議論を行っています。

戦略

「気候変動の緩和と適応」を事業の成長機会と捉え、これまで培ってきた当社の強みを活かし、モビリティ市場における軽量化、航続距離延長化、電動化に向けたソリューションや、インフラ&インダストリアル市場における光ファイバーケーブル補強材や洋上風力発電用係留ロープなど再生可能エネルギー関連ソリューションの提供に取り組んでいます。また、気候変動の移行リスク、物理リスクについては、下記の3つの側面から事業への影響を分析するとともに、環境長期目標を設定してCO2排出量削減に取り組んでいます。

気候変動関連の機会とリスク

カテゴリー 主な機会 時間軸 主な取り組み
製品および
サービス・市場
  • 「気候変動の緩和と適応」に資するソリューションの提供による収益の拡大
  • 短期~長期
  • モビリティ市場における軽量化、航続距離延長化、電動化に向けたソリューションの提供
  • インフラ&インダストリアル市場における再生可能エネルギー関連ソリューションの提供
  • カテゴリー 主なリスク 時間軸 主な取り組み
    移行
    リスク
    政策および法規制
  • 炭素税や欧州連合域内排出量取引制度(EU ETS)などに伴うコスト負担増
  • 短期~長期
  • 各種政策動向のモニタリング
  • CO2排出量の増減を伴う設備投資を対象としたインターナルカーボンプライシング(ICP)制度の導入
  • 市場・評判
  • 自社グループCO2排出量が増大することによる企業価値の低下やレピュテーションの悪化
  • 中期~長期
  • 国内外の関係会社も含めた自社グループCO2排出量の管理
  • 環境長期目標達成に向けたロードマップの策定・実行
  • 物理
    リスク
    急性・慢性
  • 気候変化に起因する台風や洪水などの激甚化や長期的な気温上昇、海面上昇などによる事業活動の中断
  • 短期~長期
  • BCP(事業継続計画)の随時見直しや各種防災訓練の実施
  • 自社グループCO2排出量(スコープ1+2)削減ロードマップ

    当社のCO2排出量については、2050年のネット・ゼロ達成を目指して、電源の再生可能エネルギー化や熱源のクリーンエネルギー化などロードマップに沿った取り組みを実行しています。再生可能エネルギー化については、欧州では順調に進捗しており、中国においても計画より前倒しで進展しています。また脱石炭化工事については、タイで完了しており、日本においても2025年度末に完了し、2026年度より効果がフルに発現する見込みです。

    CO<sub>2</sub>排出量削減ロードマップ(案)

    気候変動に関するシナリオ分析

    帝人グループでは、気候変動の影響を大きく受ける事業や業界を特定した上で、IEA(国際エネルギー機関)が発表するWorld Energy Outlook等を参考に、1.5°Cシナリオ・4°Cシナリオ*のもとでの影響度分析を行っています。いずれも業界動向における差異は需要への影響が軽微あるいはプラス・マイナス両面を相殺するものとなりますが、業界の動向を注視し、適切な投資時期や資源配分を検討しています。

    • *1.5°Cシナリオ:IEA NZE 2050 Scenario、4°Cシナリオ:IPCC RCP8.5

    インターナルカーボンプライシング(ICP)制度*

    帝人グループ内のCO2の排出増減を伴う設備投資計画を対象とするインターナルカーボンプライシング(ICP)制度を2020年度に制定・導入し、2021年度の設備投資より適用開始しています。2023年4月、グループのCO2排出目標の引き上げや、昨今の外部環境の変化などを踏まえ、本制度の見直しを行い、設定価格や適用範囲などを改定しました。社内炭素価格については、欧州を中心とした世界各国での炭素税の導入および税率引き上げの潮流や排出量取引価格の上昇など、CO2排出に関わるリスク増加を背景として、これまでの€50/t-CO2から€100/t-CO2へと引き上げました。適用範囲に関しては、自社CO2排出量については、これまでの設備投資案件に加え、M&Aなどによる投資案件や、調達先変更による再生可能エネルギーへの転換など設備投資を伴わないもののCO2排出量の削減に関わる意思決定案件にまで範囲を拡大しています。また、自社の活動に関連する他社でのCO2排出量(スコープ3)については、他社から購入する原材料に関して、リサイクル材やバイオマス由来原料などに切り替えるための設備投資に対してもICPを適用するなど、サプライチェーン全体でのCO2排出量削減を後押ししています。

    • *社内における炭素価格を設定し、CO2排出量を費用換算することで、排出量削減に対する経済的インセンティブを創出し、社内で気候変動への対応を促すしくみ
    インターナルカーボンプライシング制度の仕組み

    松山事業内発電所をガスコージェネレーションに転換

    2022年10月、帝人グループは松山事業所北地区内で使用している自家発電設備について、現在の石炭および石油燃料を用いた発電から、都市ガスを燃料として発電を行うガスコージェネレーションシステム*に転換することを決定しました。2030年度の削減目標の達成には将来の事業成長の見込みを含めると、2018年度のCO2排出量から約60万トンの削減が必要ですが、今回の燃料転換により、その約30%に当たる年間20万トンの削減効果を見込んでいます。なお、投資規模は老朽化した受配電設備を含めて百数十億円、発電所の規模としては約3万kWを見込んでいます。

    • *電力や熱を消費する現場でガスを燃料として発電及び熱供給するシステム。エネルギー効率が高いためCO2削減効果が大きい

    リスク管理

    気候変動リスクについては、主要なリスクと位置づけ、トータル・リスクマネジメント(TRM)体制のもとで管理しており、グループ会社の移行リスク、物理リスクを、TRMのリスクアセスメントにおいて他のリスクとともに抽出して対応しています。移行リスクに対しては、各種政策動向のモニタリングを行いながら、ネット・ゼロ達成に向けたロードマップを策定し、CO2排出量の増減を伴う設備投資を対象としたインターナルカーボンプライシング制度も導入して、自社グループおよびサプライチェーン(上流)における温室効果ガス排出量の削減に取り組むことで、リスクの影響度を抑制していくようにしています。また、気温上昇や海面上昇などの物理リスクに対しては、水害リスクなどの評価を行い必要な対策を実施するとともに、BCPを随時見直し、各種防災訓練を行っています。

    • TRM推進のため、業務運営リスクを担当するサステナビリティ管掌を置き、経営戦略リスクについてはCEOが直接担当する。
    • 取締役会のもとに、リスクを統合的に管理する「TRMコミティー」を設置する。
    • TRMコミティーの委員長はCEOとし、その他の委員は、サステナビリティ管掌およびCEOが指名した者とする。
    • 取締役会は、TRMコミティーから提案されるTRM基本方針、TRM年次計画等の審議・決定を行うとともに帝人グループとしての重要なリスクについて管理し、事業継続のための態勢を整備する。

    指標と目標

    当社の自社グループ温室効果ガス排出量の目標は、「2°Cを十分に下回る目標水準(Well-below 2°C)」であるとして、パリ協定の定める目標に科学的に整合する温室効果ガスの排出削減目標「Science Based Targets(SBT)」の認定を受けています。

    CO2削減貢献量*1

    これまで培ってきた軽量化・効率化の技術を活かし、サプライチェーン全体でCO2削減を目指します。2030年度までの早い段階にCO2削減貢献量をCO2総排出量*2以上にすることを目指します。帝人グループは、製品のライフサイクル全体での環境負荷を可視化するライフサイクルアセスメント(LCA)の取り組みを通じて、サプライチェーン全体での排出量削減に取り組んでいます。2023年度より、LCA推進専門分科会を立ち上げ、グループ全体でLCAの取り組みを推進しています。

    • *1当社製品使用によるサプライチェーン川下でのCO2削減効果を貢献量として算出したもの
    • *2CO2総排出量は、スコープ1、スコープ2および、スコープ3のうちカテゴリー(C)1(購入した製品・サービス)、C2(資本財)、C3(スコープ1,2に含まれない燃料およびエネルギー活動)、C4(輸送、配送(上流))、C5(事業から出る廃棄物)、C6(出張)およびC7(雇用者の通勤)を対象に算出

    グループ目標(KPI)

    2030年度までに「CO2総排出量」 < 「CO2削減貢献量」 達成

    CO2総排出量とCO2削減貢献量の推移

    2023年度のCO2削減貢献量は、炭素繊維の売上増加等により、前年度比5%増の3.33百万t-CO2となりました。

    CO2総排出量 CO2削減貢献量
    2021年度 5.07百万t-CO2 2.46百万t-CO2
    2022年度 5.03百万t-CO2 3.17百万t-CO2
    2023年度 5.25百万t-CO2 3.33百万t-CO2

    自社グループCO2*1排出量*2

    早期に自社保有の石炭火力を全廃し、購入電力を再生可能エネルギーに順次切り替えることで、事業成長と温室効果ガス排出のデカップリングを進めます。

    • *1CO2以外に、メタン、一酸化二窒素を含む
    • *2CO2排出量は、GHGプロトコルを参考に算定し、他社に販売したエネルギー量に相当するCO2排出量は控除していない。また、化学反応バランスに基づき算定した炭素繊維生産時の非エネルギー起源CO2排出量を集計対象に含む。燃料の排出係数は地球温暖化対策推進法に基づく係数を使用。電力の排出係数は、国内は電力会社別の調整後排出係数、海外は原則電力会社固有の係数を使用しているが、電力会社固有の係数を把握できない場合、国際エネルギー機関(IEA)公表の最新年の国別排出係数を適用

    グループ目標(KPI)

    • 2030年度 30%削減(2018年度1.48百万t-CO2対比)
    • 2050年度 実質ゼロ実現

    自社グループCO2排出量の推移

    2023年度の自社グループCO2排出量は、海外拠点における再生可能エネルギーの導入等により、前年度比4%減の1.27百万t-CO2保証対象指標(スコープ1:0.67百万t-CO2保証対象指標、スコープ2:0.60百万t-CO2保証対象指標)となり、2018年度比14%削減となりました。

    サプライチェーンCO2排出量*

    サプライチェーンのCO2排出量の3分の2を占める部分についてKPIを設定し、サプライチェーン全体でCO2排出量削減を促進しています。

    • *スコープ3排出量のうち、カテゴリー1(購入した製品・サービス)を対象。ただし、繊維・製品事業にて販売目的で購入した商品に関するカテゴリー1の排出量は除く。購入した製品・サービスの購入重量または購入金額に、重量または金額単位の排出原単位を乗じて算定。金額単位の排出原単位は、環境省「サプライチェーンを通じた組織の温室効果ガス排出等の算定のための排出原単位データベース(Ver.3.4)(2024年3月)」(排出原単位DB V3.4)の原単位データを採用。重量当たりの排出原単位は、Ecoinvent Database(Ecoinvent Associationが運営)またはLCA for Experts(GaBi)Database(Sphera社が運営)の原単位データを採用

    グループ目標(KPI)

    2030年度 15%削減(2018年度2.89百万t-CO2対比)

    サプライチェーンCO2排出量の推移

    2023年度は、集計可能な対象品目増加により排出量が増加し、2018年度比2%減の2.84百万t-CO2保証対象指標となりました。

    物流分野におけるCO2排出量

    2023年度の物流分野におけるCO2排出量は5.89千t-CO2保証対象指標となり、2022年度から0.14千t-CO2増加しました。2023年度は、航空機や自動車向けの需要は好調であった一方、中国の経済減速等の影響を受け、全体の延べ貨物輸送量は減少(5.9千トンキロ/年の減少)しました。継続的な物流での環境負荷低減施策として、2023年度もトラック積載率の向上、モーダルシフト(JR輸送、船便活用)を可能な限り実行したものの、海上輸送遅れ懸念等による輸送効率の悪化が生じたことから、CO2排出量は前年度よりも増加しました。こうしたことから、グループ全体の物流分野における「CO2排出量原単位」は前年度比0.16増加となりました。基準となる千トンキロ当たり原単位(t-CO2/千トンキロ)は、2011年度を1とした指数では1.21保証対象指標となりました。2024年度に関しては、揚げ地変更によるドレージ距離の短縮やコンテナラウンドユースのほか、大型車両化(まとめ輸送の拡大)やトラック積載率向上、モーダルシフトを継続して推進し、原単位の低減に努めます。

    物流分野におけるCO2排出量の推移

    物流分野におけるCO<sub>2</sub>排出量
    • *物流におけるCO2排出量の各年度の集計範囲は以下の通り
      2011年度:帝人(株)(アラミド事業を除く)、帝人フィルムソリューション(株)及び帝人フロンティア(株)に統合された旧帝人ファイバーのアパレル事業
      2020年度:帝人(株)、帝人フロンティア(株)、帝人ファーマ(株)、帝人コードレ(株)※帝人フィルムソリューション(株)及び帝人エンジニアリング(株)は対象外
      2021年度以降:帝人(株)、帝人フロンティア(株)、帝人ファーマ(株)、帝人コードレ(株)※帝人エンジニアリング(株)は対象外