サステナビリティ

人的資本

人的資本の考え方

帝人グループは、「人財」を究極の経営資本と位置づけています。経営戦略・事業戦略を「組織」と「人財」を通じて実現し、バリューのひとつである「多様な仲間と専門性を活かして成長します」をかなえるために、社員の自律的なキャリア形成を支援し、グローバルでの適所適材を進めています。

人的資本の考え方

  • 帝人グループに集う多様な社員が、それぞれの人間的成長や豊かな人生を実現できるよう、会社は魅力的な働く環境を整備し、社員の自律的なキャリア形成を支援します。
  • 事業の成長には、組織と人財の能力開発・発揮が不可欠であり、それに必要な「組織設計」「採用」「配置」「人財開発」「評価・処遇」等といった一連の人事施策を通じて、適所適材を実現します。

ガバナンス

帝人グループは、全経営役員をメンバーとする「グループ人事/D&I会議」(2023年度は15回開催)にて、役員およびグローバルレベルで重要なポジションにおけるサクセッションプランの検討状況の共有や個別アサインメントの検討、経営者育成に向けた施策に関する議論を実施しています。また、人的資本や多様性を含めた人事・人財育成に関わる事項のうち重要なものについては経営会議および取締役会に報告されます。これらの活動は、人事・総務管掌(CHRO)を責任者として、国内の人事部門の部長、事業本部の人事トップマネージャー等と連携して進めています。加えて、Global HR Leadership Meetingを四半期ごとに開催し、グローバルレベルでの人事戦略、人事施策の検討、各事業における人事施策の進捗状況や課題の共有等を実施しています。

人事戦略

経営戦略・事業戦略を実現するためには、組織および人財の競争力を高める必要があります。そのため、人事戦略の大きな柱を、「戦略を実装する『適所』の確立と『適材』の確保」と「人財が活躍するための施策」としました。

1)戦略を実装する「適所」の確立と「適材」の確保

戦略を実装する「適所」の確立と「適材」の確保を実現する上での主要な課題は、A.社内グローバル人財の最大限活用、B.人財ポートフォリオの最適化、C.社員のキャリア自律です。これら課題解決のため、日本を含むグローバルにおいては適所適材を実現するための施策、日本国内においては職務に基づく評価・処遇制度(いわゆるジョブ型の人事制度)への改定等を進めていきます。

2)人財が活躍するための施策

人財の活躍を実現するための主要な課題は、D.多様な視点を合わせることによって、イノベーションを促進させること、E.社員エンゲージメントの向上です。帝人グループの多様な人財が、自らの能力やスキルを最大限に発揮し生き生きと活躍できる環境を作るため、多様性をより一層富ませるとともに、社員エンゲージメントの阻害要因を特定し、改善アクションを設定、かつそれを実行していくことで、社員エンゲージメントの向上を図っていきます。

当社は、グループ全体の経営戦略に基づき、各事業がそれぞれの事業戦略を策定、実行しています。戦略実行に適した組織を設計し、それぞれのポジションの職務を定義した上で、事業戦略を実行する人財を適所適材で確保し、グローバルで職務に適した処遇を行っていくことで、戦略の実現および事業競争力強化を目指しています。併せて、帝人グループに集う多様な人財が、それぞれの経験や価値観等からアイディアや考えを出し合い、時には衝突しながらも、それを乗り越えてより良いソリューションやイノベーションを創出していくとともに、多様な人財がエンゲージメント高く生き生きと活躍し、自分らしいキャリアを実現していくための施策を実行しています。社員のキャリア自律を促すこと、グローバル適所適材を推進することにより、事業戦略に貢献する人財ポートフォリオを構築し、企業価値向上を図っていきます。人事戦略の全体像は、次の通りです。

戦略を実装する適所適材

1)戦略の実装に向けた組織設計

人財マネジメントの考え方を適材適所から、適所適材へと変更します。戦略実行に適した組織設計を行い、設計した組織のポジションごとに、その役割を担える人財を配置し、戦略の実現と事業競争力の強化を図ります。

人財マネジメントの考え方の転換
戦略実現のためのグローバル施策

2)人財ポートフォリオの構築とコアポストのサクセッションプラン

①人財ポートフォリオの構築

◆コアポストの人財ポートフォリオ

2023年度は、役員および部門長クラスの「コアポスト」におけるサクセッションプランの目的、内容およびプロセスを全面的に改定し、トップ層の人財ポートフォリオ構築を実施しました。役員・部門長のポジションの職務と、サクセッサー候補の充足率を明確化し、そのギャップを埋めるための施策(採用、配置、人財開発)を実行しています。

◆専門人財などの経営戦略・事業戦略に資する人財のポートフォリオの策定

2024年度から開始した新中期経営計画の事業ポートフォリオ変革を推進するため、事業本部と共同で必要な専門人財などの経営戦略・事業戦略に資する人財のポートフォリオを策定し、最適化に向けた必要人財の獲得施策を検討・実施していきます。

②コアポストのサクセッションプランの遂行

役員のサクセッションプランについては、各役員がサクセッションプランを策定した後、CEOおよび人事・総務管掌との三者面談で確認し、その後グループ人事/D&I会議で議論をするというプロセスによって、サクセッションプランのアップデートを行います。2023年度のサクセッサー候補の充足率は74%でした。グループ人事/D&I会議の中で、役員ポジションを起点としたサクセッションプランにおけるコアポスト就任候補者の戦略的配置についても議論し、ポジションに就任させるまでの育成を加速しています。部門長クラスのサクセッションプランについては、部門長本人がサクセッションプランを策定した後、各役員がサクセッションプランをアップデートさせ、人事・総務管掌と役員との事業別人事会議で議論を実施し、戦略的配置のほか、ポジション就任候補者の人財開発のための個別育成を実施しています。

SP充足率(役員) 74%(2023年度)

③次世代経営者候補育成

帝人グループでは、次世代経営者育成のため、次のプログラムを実施しています。

◆STRETCH.advanced

「STRETCH」とは「Strategic Executive Team Challenge」の略で、次世代経営者育成のプログラムです。これまでは、STRETCHⅠとSTRETCHⅡの2つの階層で優秀人財を選抜し、一律のプログラムで育成を図ってきました。2024年度からは、STRETCHⅠ・Ⅱを再編し、複合的・実践的なプログラムに改善した「STRETCH.advanced」を開始します。診断・確認・能力開発の3つのフェーズがあり、診断フェーズで特定された本人の能力開発領域に応じて、個別のプログラムを受講させ、役員サクセッションプランを支える人財を育成します。

◆JuMP

「JuMP」とは「Junior Management Program」の略で、事業横断で優秀者を選抜して中核部長以上のマネジメント候補人財を育成するプログラムです。日本国内コースと海外コースがあり、隔年で開催しています。直近のプログラム参会者は、日本国内コース22名、海外コース20名でした。今後は、コース統合を検討し、グローバルで人財を育成するプログラムに改定予定です。

3)戦略的な適所適材と社員のキャリア自律の両立

◆グループ内公募制度「ジョブチャレンジ制度」

社内公募制度「ジョブチャレンジ制度」を、1988年に日本企業としていち早く制定しました。2024年度からはグローバルでの社内公募制度である「グローバルジョブポスティング」を本格的に開始し、社員のグローバルでの自律的なキャリア形成とグローバルでの適所適材を推進しています。また、日本では、2023年度に本制度の活性化と、社員が自身のキャリアを思い描けるようにすることを目的として、「ジョブポスティングウィーク」と称し、公募している部署の長が部署と仕事の魅力をPRするイベントを実施しました。その結果、国内の公募数は、前年度対比2.3倍に増加しました。今後は、これらの公募制度を活発化させ、社内人財の自律的な流動を促していきます。

◆FA(フリーエージェント)制度

社員本人が自身の能力・経験などを希望する異動先事業に開示し、異動先事業の選考を受けられる仕組みです。ジョブチャレンジ制度と併せて、社員が自律的にキャリアを形成できるよう支援します。

4)ジョブ型への移行(職務に基づく評価・処遇の実現)

2023年4月に役員層について、ポジションにおける役割・責任と処遇の関連性を明確にしたジョブ型人事・評価を導入しました。次いで、帝人(株)・帝人ファーマ(株)で、2024年4月に部門長以上の管理職について、職務の大きさ(幅、難易度、責任の重さなど)に応じて処遇を決める処遇制度に移行しました。これらの制度改定により、ポジションの職務内容を明確化し、職務に応じた処遇を実現することで、優秀人財の採用、配置、人財開発を図ります。今後は、部長以下の管理職についても職務基準の人事制度への改正を検討していきます。

5)キャリア自律に向けたキャリア構築支援と人財育成・教育研修

①キャリア構築支援

社員の自律的なキャリア形成を促すことは、会社と社員の健全な関係のベースとなるものであり、社員の社内・市場競争力を高めるための努力は、企業価値の向上に大きな貢献をするものであると考えています。今後のキャリア形成について本人・上司が話し合う場としての「キャリア面談制度」をトライアルとして開始しました。また、2023年度より開始した「ジョブポスティングウィーク」は、社内公募している部署の長が自分たちの仕事を全社に紹介することで、社員に社内のキャリア機会を広く知ってもらう目的もあります。キャリア形成は自己責任ではあるものの、会社は社員のキャリア自律を最大限サポートします。

②人財育成と教育研修の基本的な考え方

帝人グループでは、「社員各自の自己啓発による主体的な研鑽」を促進・奨励し、「現場でのOJT」「配置・ローテーション」「教育研修」と連携して、体系的にグループ人財の育成を図っています。


人財開発実績(2023年度)

教育費用 1億9,800万円
教育時間 延べ40,800時間
教育人数 延べ900名
  • *日本2社:帝人(株)、帝人ファーマ(株)
  • *人財開発グループ管轄の研修に限定

人財育成と教育研修の基本的な考え方

人財育成の基本は、社員各自の自己啓発による主体的な研鑽を促進・奨励することにある。

  1. 1.現場でのOJT

    上司が日常業務を通じて部下を個別に育成・指導することにより、自己啓発・研鑽を促す手段。仕事に対する緊張感や、仕事の完成に向けてのプロセスを通じた充実感・達成感を与え、部下の成長を支援する。

  2. 2.配置・ローテーション

    個々人の能力開発・伸長の機会であり、さらなる自己啓発・研鑽を促す手段。上司は、部下の長所や個性を的確に把握するとともに、本人との面談等で得た情報を踏まえて、適正な配置・ローテーションに努める。

  3. 3.教育研修

    経営ニーズと現在および将来の職務遂行に必要な要件を踏まえた内容を提供し、個々人の自己啓発・研鑽の契機となる機会を提供する「Off-JT」手段。上司は、部下を教育研修に積極的に派遣することにより、グループ内外社員との相互啓発、視野の拡大を図る。

  4. 4.キャリア開発・360度評価

    年に1回、社員と上司がキャリアについて面談をする機会を持ち、社員のキャリア開発を行う。また、社員自身の気付きを促すため、全管理職社員を対象に360度評価を行う。人事考課の結果は、上司から本人にフィードバックをし、社員の成長につながる指導やアドバイスを伝える。人事考課の結果に納得できない場合は、人事部へ直接申告できる制度を活用する。

③教育研修事例

◆任意選択型オンライン研修

自由に選択できる8,000以上のeラーニング講座の中から、社員自らの課題感や関心に応じてリスキリング・アップスキリングにつなげるもので、最新のトピックスや各業界のトップランナーによる講座が日々アップデートされます。2022年8月から導入し、毎月95%以上の利用率を継続中です。2024年6月時点で、延べ3,000人を超える社員が利用しています。

◆リーダーシップ研修プログラム「EaGLES(イーグルス)」

「EaGLES」は、2011年度から実施しているグループ共通のリーダーシップ研修プログラムです。すべての管理職が持つべきリーダーシップと帝人グループの価値観や経営方針、歴史などを身につけられる内容となっており、これらのスキル・知識を必要としている国内外の社員が、順番に受講しています。

◆海外実務研修制度

2019年度に、若手社員が海外グループ会社で実務を経験するとともに国際感覚を磨き、人的ネットワークを構築するための「海外実務研修制度」を立ち上げ、2023年度は日本から海外への派遣者に加えて、海外(米国、ドイツ)から日本への派遣者も含めた4名が研修に参加しました。

◆DX研修

DX推進基盤として、全社員を対象に、知識・意識の向上・底上げを図るものです。グローバルの社員に対して2023年8月から順次実施し、約8,000人(日本:約6,000人、海外:約2,000人)が受講しました。2024年度はアドンバンスコース、マネージャーコースを実施しています。

6)タレントアクイジション戦略

経営戦略・事業戦略の実現、グローバルでの事業競争力を高めるためには、専門性の高い人財を外部から獲得していく必要があります。2023年度は、キャリア入社者の採用にも力を入れており、キャリア入社者比率は40.9%(帝人(株)、帝人ファーマ(株))でした。今後は、新規に採用された社員が、早期に実力を発揮できるよう、オンボーディングの施策の強化も進めます。また、ダイレクトリクルーティング、アルムナイ(Hello-Again制度*含む)、リファラルなど採用方法の多様化を進め、必要な人財の確実な採用を図っていきます。

  • *帝人(株)と帝人ファーマ(株)における、結婚・出産・育児・介護・配偶者の転勤などを事由とする退職者が、その後10年以内に退職事由が解消して再入社を希望し、採用ニーズと合致した場合に、正社員として再雇用する制度

人財が活躍するための施策

グローバルで帝人グループに集う多様な社員が、自らの能力やスキルを最大限に発揮し生き生きと働き活躍することが必要です。社員が活躍できる環境を整備するため、「DE&Iの推進」、「エンゲージメント向上」を進めています。

1)DE&Iの推進

帝人グループは、多様な人財を活用することが創造性を高め、イノベーションを促進するとの考えから、2000年に女性活躍推進の専任組織を、トップダウンで設置しました。以降、テーマを国籍、障がい者、LGBTQ+関連などにも広げ、多様な社員が活躍できる企業風土醸成に取り組んできました。事業のグローバル化に伴い、日本を中心とした取り組みを世界に広げ、役員層の多様性推進のためのKPIを設定しています。また、これまでは、ダイバーシティ(多様性)とインクルージョン(包摂性)を推進していましたが、社員の属性やニーズがさらに多様化している状況の中、今後は、一人ひとりがパフォーマンスを出せるよう、個々に合わせて支援内容を調整し、公平な土台をつくり上げる「エクイティ」の施策も検討、実施していきます。

①女性活躍推進法に基づく行動計画と女性活躍推進

帝人グループは、2000年に女性活躍推進の専任組織を設置しました。以降、子育てと仕事の両立支援制度の拡充などのハード面と、女性のキャリア意識の醸成やアンコンシャスバイアス研修、社内外のネットワーキングづくりなどのソフト面の両面から、さまざまな取り組みを実施しています。2024年度からの新しい行動計画では、女性役員のパイプライン形成、また部課長として活躍する女性を増やすため、事業本部ごとに女性部課長の比率目標を設定し、事業本部内での計画的な育成と登用を実施しています。

女性活躍推進法に基づく一般事業主行動計画表

取り組み1:女性役員のパイプライン形成のための施策

取り組み2:女性管理職および管理職候補層の育成のための施策

取り組み3:ロールモデルとのマッチング

出光興産(株)、東京海上日動火災保険(株)、(株)リコーとの異業種クロスメンタリングキックオフ

女性リーダーの育成・登用促進に注力しています。日本においては、女性の採用強化、育児との両立支援、健康リテラシー向上セミナー等のさまざまなライフステージに応じて女性が自分らしく働き続けるための定着支援に加え、メンタリング等によるキャリア支援強化や、事業横断での女性リーダーシップ研修にも取り組んでいます。2024年度より、女性が自分らしいリーダーシップを発揮できるよう、トライアルとして階層別に異業種間メンタリングを実施しています。他社のメンターからさまざまな示唆を受けて実際の業務の中で実行するというPDCAサイクルを通じてリーダーとしての成長を促し、また参加者同士の交流の機会を作ることで、社内外のネットワークの醸成にもつながります。

リコチャレ パン教室の様子(大阪本社)

また、社会貢献活動の一環として、女子学生が理系の仕事に進む後押しをする目的で企画された内閣府が中心となって取り組む「理工チャレンジ(リコチャレ)」にも2021年度より参加しています。2024年8月には、女性研究職の社員らの企画によるパン教室「リコチャレ~パンと科学の関係は?~"おいしいパンの秘密を解き明かそう"」を大阪本社で開催し、当社のビオリエ事業部の商品を利用したレシピ開発の仕事などを紹介しました。理工系の若手社員のグループに企画から運営まで任せることにより、社内でのネットワークの形成にもつながっています。


女性管理職数の推移

  • *各年度3月31日時点のデータ
  • *国内グループ主要4社:帝人(株)、帝人ファーマ(株)、帝人フロンティア(株)、インフォコム(株)
  • *女性管理職比率:管理職数全体に占める女性管理職の割合

男女別育児休業取得者数の推移

当社グループでは、性別に関係なく誰もが育児支援の制度を利用できる企業風土の醸成に取り組んでいます。帝人(株)では、2022年度に育児休業取得時に個人の積立年休を利用することで、男女ともに最大55日間給与が支給されるように制度を改定しました。また、トップによる育児休業取得を推奨するメッセージの発信や、男性の育児休業取得者の経験談を社内報やイントラ等で周知するなどした結果、2023年度は男性の育児休業取得率は83.7%となりました。平均取得日数は2022年度の7日から22日に増加しました。また、国内グループ主要4社における男性の育児休業取得率は75%でした。

  • *育児休業取得者に育児目的の休暇取得者も含む
  • *国内グループ主要4社:帝人(株)、帝人ファーマ(株)、帝人フロンティア(株)、インフォコム(株)

男女の賃金差異

当社グループでは、給与制度における性別による差異はないものの、下記のような調査結果となりました。男女賃金差異については、一部を除き全体的に賃金差異は縮小されました。

  2022 2023 前年比昇降差
  全労働者 正社員 パート 全労働者 正社員 パート 全労働者 正社員 パート
帝人 76.4 79.2 58.6 77.9 81.2 58.0 +1.5 +2.0 -0.6
帝人ファーマ 45.8 65.9 29.5 47.5 70.5 31.1 +1.7 +4.6 +1.6
帝人フロンティア 55.6 57.4 42.5 57.5 58.8 55.0 +1.9 +1.4 +12.5
インフォコム 73.9 76.4 48.1 74.8 77.6 50.3 +0.9 +1.2 +2.2
4社平均 61.3 70.7 37.7 63.1 73.8 37.1 +1.8 +3.1 -0.6

また、差異の主な原因は下記の通りです。

  1. 1.職級が高くなるに従い、同一職級の中でも女性比率が低くなります。このような労務構成が男女の賃金差異につながっています。
  2. 2.基本給以外の諸手当の支給実績で男女差があるケースがあり、これが男女の賃金の差異につながっています。当社では、世帯主に支給される家族手当や住宅手当、単身赴任者に支給される単身赴任手当や帰宅旅費手当は、実態として男性に多く支給されており、これら手当の総支給額のうち、女性への支給額は全体の7%でした。
  3. 3.育児や介護のための短時間勤務制度を利用する男性従業員は少なく、これが男女の賃金の差異につながっています。当社では、育児短時間勤務・介護短時間勤務の男性の利用者割合は、それぞれ10%、0%でした。

上記のように男女の賃金差異を生じさせる原因を把握し、女性管理職の計画的な育成と登用、人事制度の改正および性別役割意識の改善等を通じて賃金差異の縮小に継続的に取り組んでいきます。

②障がい者活躍推進

障がい者活躍に関しては、特例子会社の帝人ソレイユ(株)で野菜・バラ・胡蝶蘭を中心とした農業事業と、オフィスサポート事業を実施し、障がい者一人ひとりの特性に応じた活躍の場を作っています。ハンディキャップがあっても農業において能力を発揮することで、会社・事業に貢献するだけでなく、自らが経済社会を構成する労働者の一員であることに"やりがい"と"誇り"を感じられることを目指しています。また、帝人ソレイユ(株)では農業事業において売上増加および営業利益黒字化を目標に販売拡大に取り組んでいます。なお、2024年3月時点での帝人(株)・帝人ファーマ(株)・帝人ヘルスケア(株)・帝人ソレイユ(株)における障がい者の雇用率は2.62%で、法定雇用率である2.3%(2024年3月時点。2024年4月以降は2.5%)を上回っています。2021年度にはノウフク・アワードで特例子会社として初のチャレンジ賞を受賞、2023年度はもにす認定を受けました。

③LGBTQ+活躍支援

LGBTQ+当事者の活躍のため、2017年以降、①会社としての方針明示、②社員への啓発活動、③当事者に配慮した人事給与の制度改定、④当事者への支援の取り組みを実施してきました。①および③は既に実施済みであることから、社員への啓発活動と当事者への個別支援に重点を置いています。2023年度はLGBTQ+当事者を理解するためのイベントや階層別研修でのLGBTQ+当事者についての研修を実施しました。また、数はまだ多くないものの、当事者からの個別相談が増えてきています。このような取り組みが評価され、work with PrideのPride指標で4年連続Goldを受賞しました。

④DE&I意識啓発の展開

グローバルに事業活動を推進する上で、国籍・人種・性別・価値観・発想・経験などが異なる多様な人財の能力を活かすことは不可欠です。帝人グループは、バリューの一つに「多様な仲間と専門性を活かして成長します」を掲げ、一人ひとりの個性と魅力を活かし、能力を最大限に活用できる環境を整備しています。2002年からDE&I意識啓発のための冊子「together」を毎年発行し、2020年版からは、グループ全社員に配布するため、日本語版に加え英語版・中国語版も作成しています。2023年度の最新号では、「なぜ帝人にD&Iが必要なのか?~今、改めて考える多様な人財活用の意義~」をテーマにCEOと女性の社外取締役の対談を巻頭特集として取り上げ、DE&I推進はレジリエントな組織を築いて、長期ビジョンを実現するための必要な手段であることをトップメッセージとして改めて明示しました。また、帝人グループでは、毎年エンゲージメントサーベイを実施していますが、2023年度に実施したサーベイの結果からDE&Iの方針や考え方のグローバルでの浸透度に課題があることが分かりました。そこで、2024年3月の国際女性デーに合わせて改めてトップメッセージを動画でグローバルに配信しました。今後は、社員有志が実施しているDE&Iの活動をグローバルで情報共有するなど、トップダウンとボトムアップ双方の取り組みを継続しDE&Iの浸透と意識の向上を図っていきます。

2)エンゲージメントの向上

◆社員エンゲージメントの高い競争力ある企業へ

事業戦略の実現には、社員エンゲージメント向上が必要です。毎年1回サーベイを実施し、結果を分析して課題を特定し改善アクションを実施するというPDCAサイクルでエンゲージメント向上を図っています。2023年度は、日本・海外のグループ社員約19,500人を対象として実施し、回答率が71%と前年度比で3%増加したものの、エンゲージメントスコアは62と前年度比2ポイント低下しました。サーベイの結果分析から、サーベイ後の行動(改善アクション)に課題があるということが分かりました。2024年度以降は、部課長の改善アクション設定率をKPIに設定し、部や課といったフロントラインの組織でそれぞれ異なる課題に対して改善アクションを実施していくことでエンゲージメント向上を図ります。

人的資本に関するKPI

人事戦略の柱のひとつである「人財が活躍するための施策」による効果を測るため、役員層・管理職層の多様性と社員エンゲージメントに関する指標を設定しています。計画的な育成と登用で役員層・管理職層の多様性を改善し、エンゲージメント改善アクションの設定と実行で社員エンゲージメントを向上させ、目標の達成を目指します。


多様性に関するKPI

    実績2023年10月 マイルストン2026年4月 目標2030年4月
役員*1 女性 12% 20% 30%
外国籍 8% 10% 30%
管理職*2 女性部課長 10% 12% 20%

社員エンゲージメントに関するKPI

  実績2023年9月 マイルストン2026年4月*3 目標2030年4月*3
社員エンゲージメントスコア 62 64 68
  1. *1取締役、監査役、グループ執行役員
  2. *2日本を含めたグローバルでラインポストに就く役職者
  3. *3前年9月実施分

働き方

社員に寄り添った多様な働き方の実現

テレワーク制度

帝人(株)、帝人ファーマ(株)では、2019年度より、育児・介護などの事由がなくともオフィス以外での勤務も可能な「テレワーク制度」を導入しています。2020年度からはCOVID-19感染拡大防止のため、このテレワーク制度を臨時措置として拡大活用していましたが、現在は、事業本部ごとの業務実施方法に応じたテレワーク上限時間を設定し、柔軟な働き方が実現できるようにしています。今後もテレワーク制度と職場での対面によるコミュニケーションを効果的に組み合わせ、組織の生産性をさらに高めつつ、働き方の柔軟性を高めることで社員一人ひとりが持てる力を最大限に発揮できるよう制度の拡充に努めていきます。

実労働時間の短縮

国内グループ会社では、従前から時間外労働の事前申請やノー残業デーの徹底に取り組んでいます。2023年度の国内グループ主要4社*の時間外労働時間数は1ヵ月当たり14.4時間保証対象指標(2022年度より0.3時間増加)、年次有給休暇取得率は80%保証対象指標(2022年度より2ポイント減少)でした。2024年度は、実労働時間の短縮を目指し、改善を進めていきます。「適正な労働時間の実現」にあたっては、ITツールや外部コンサルタントなどを活用して業務の棚卸しや見える化を進め、業務の抜本的見直し(IT活用、業務の標準化、会議の効率化など)を進めています。具体的施策として、RPA(Robotic Process Automation)の展開に力を入れ、業務の自動化や効率化により労働時間の短縮や労働負荷の適性化や平準化を促進させています。

  1. *国内グループ主要4社:帝人(株)、帝人ファーマ(株)、帝人フロンティア(株)、インフォコム(株)

仕事と個々のライフイベントとの両立

①育児と仕事の両立支援

2000年に女性活躍推進室が設置されて以降、子育てと仕事の両立にも継続して力を入れています。短時間勤務制度を子の小学校3年生の年度末まで利用可能とし、積立年休の利用による休職中の賃金補助や、ベビーシッター利用時の費用補助を行うなど、男女を問わず社員が子育てをしながらでも働きやすい柔軟かつ多様な制度設計と、制度の運用促進のための対応マニュアルを作成し、上司を含めた職場の理解と円滑なコミュニケーションを促しています。2024年度に更新した「次世代育成支援対策推進法(改正次世代法)に基づく行動計画」では、下記の通り目標を立て、子育てと仕事を両立させながら、社員一人ひとりが、より生き生きと働ける環境の構築に力を入れています。

目標1:子の出生後も自律的にキャリア形成できる環境整備

目標2:男性の育児参画の機会増加

目標3:子育てをしている社員がワークライフバランスを実現できるようにするための働き方改革

また、都市部を中心に保育園が不足し、保育園が決まらず、予定していた時期に育児休職から復職できないケースに備え、育児休職中の「保活」支援をしています。「子育てみらいコンシェルジュ」のサポートで、よりスムーズな復帰につなげています。


②家族の介護と仕事の両立支援

今後、少子高齢化が進むにつれ両親などの家族の介護をするケースは、さらに増加していくことが見込まれます。社員一人ひとりが家族の介護と仕事を両立できるようにすることは、会社としても取り組むべき重要な課題です。介護の短時間勤務の適用期間を「介護が必要な期間中」とし何度でも分割利用を可能とするなど、必要な期間・時期が予測しにくい介護の特徴などを踏まえた制度設計をしており、社員が介護をしながらでも安心して働き続けられる環境を構築しています。また、介護に関する知識や制度周知のための介護セミナーの開催や、社員が実際に介護に直面した際にどうしたら良いかを相談できる「介護コンシェルジュデスク」や介護情報を閲覧できる「わかるかいごBiz」を利用できるようにするなど、ソフト面でも両立を支援しています。


③社員の私傷病と仕事の両立支援

病気治療等短時間勤務制度を導入し、がんをはじめさまざまな病気に罹患した社員や、不妊治療を受けている社員の仕事と治療の両立を支えています。2022年度は、「がん治療と両立」セミナーを当事者とその上司だけでなくその家族にも参加を呼びかけました。また、疾病ではありませんが、女性の生理時の心身の不調などを男性に理解してもらう目的で、2022年度より連続して女性の健康をテーマとしたセミナーを開催しました。また、新任管理職研修において、女性の健康に関するリテラシーを高めています。

その他ワークライフバランスの推進への取り組み

①配偶者海外転勤同行休職制度

帝人(株)では、社員が配偶者の海外転勤に同行する場合は、3年間の休職ができるようにしています。2014年度の制度開始から2024年3月末までに、28人が利用し、うち17人が復職しています。


②ボランティア休職制度

帝人グループはボランティア活動促進の観点から、帝人(株)および帝人ファーマ(株)で有給のボランティア休職制度を導入しています。2024年3月末現在、ボランティア休職中の社員は38人です。

帝人グループ労務管理実態の把握

帝人グループでは、グループ各社の労務管理状況を定期的に調査しています。グループ各社の労務管理上の課題を把握し、特に労働CSRの観点から必要な施策を実施しています。調査の対象は、国内31社、海外67社のグループ会社であり、労働CSR指標(基礎指標)についての調査書を送付し、毎年、回答を集めています。また、労働関係法規の変更があった場合などは、すべての国内グループ会社に対して、労務管理状況や就業規則、人事制度に関する調査を随時実施しています。 なお、国ごとに労働関連法規が異なるため、海外グループ会社に関しては、基本的項目に対して調査を行っていますが、必要に応じて、人事制度や給与制度に関する追加調査を実施しています。

調査内容項目(国内グループ会社)

労働CSR指標(基礎指標)--毎年実施

  1. (1)在籍人員(職位別/性別)
  2. (2)平均勤続年数・平均年齢(職位別/性別)
  3. (3)採用人員(職位別/性別/新卒・キャリア別/事務系・技術系別)
  4. (4)退職人員(職位別/性別/事由別)
  5. (5)定年後再雇用実績(職位別/性別)
  6. (6)役員人員(性別/日本国籍)
  7. (7)有期雇用人員(性別/日本国籍/嘱託/OB/パート)
  8. (8)育児休職/取得日数(平均・最長)/育児短時間勤務利用実績(性別)
  9. (9)介護休職/介護短時間勤務利用実績(性別)
  10. (10)ボランティア休職取得者数(性別)
  11. (11)看護休暇取得者数(性別)
  12. (12)家庭事情による退職者の再雇用制度(性別)
  13. (13)在宅勤務制度利用者数(性別)
  14. (14)外国人労働者数(所属、国籍、性別、職掌、入社年月日)
  15. (15)外国人研修生(技能実習生)受け入れ人数
  16. (16)海外出向者数(日本人の海外企業への出向者)
  17. (17)単身赴任者数(国内・海外)
  18. (18)男女の賃金の差異(正規・非正規、性別、差異理由)
  19. (19)女性活躍推進法の対応状況(行動計画の提出、公開項目)

労務管理実態--随時実施
法対応

  1. (1)高齢者雇用
  2. (2)労働時間
  3. (3)派遣・請負
  4. (4)母性保護・育児
  5. (5)介護・看護
  6. (6)雇用機会均等

労務施策

  1. (1)ワークライフバランス(時間外労働時間/年次・有給休暇取得率/フレックスタイム制度の導入状況など)
  2. (2)退職金制度
  3. (3)ダイバーシティ推進状況
  4. (4)採用・教育
  5. (5)福利厚生制度(社宅・寮/その他課題)
  6. (6)その他課題(現在課題として認識しており支援を希望する内容ほか)
調査内容項目(海外グループ会社)

労働CSR指標(基礎指標)のうち以下について調査(職位別・性別)

  1. (1)在籍人員
  2. (2)平均勤続年数・平均年齢
  3. (3)採用人員
  4. (4)退職人員

健全な労使関係の維持

帝人グループでは、労働組合を重要なステークホルダーと位置付け、健全な労使関係の維持と関係強化に努めています。また、労使関係の基本である「事前協議の徹底と相互理解」を重視しています。労使会議に関しては、帝人(株)では包括労働協約において、会社、組合いずれか一方の申し出により開催できると定めており、これを遵守しています。国内グループ会社については、役員・管理職などを除く社員が労働組合に加入しています。経営層と主な労働組合の役員が一堂に会する「グループ労使経営協議会」や適宜開催される労使委員会などで、事業全般に関する意見交換や職場環境の改善に向けた話し合いを行っています。また春季労働条件改定時にも、ベースアップや報酬の議論にとどまらず、今後目指していくべき人事諸制度の方向性や人財確保・社員の能力開発・モチベーション向上といった人事全般に関する課題を広く議論しています。海外グループ会社では、労働組合やワークカウンシル(労使協議会)を設置して、より良い職場環境と労働条件の実現に向けて、会社と従業員の代表とが協議を重ねています。

帝人(株)、帝人ファーマ(株)と帝人労働組合(帝人グループで最大の労働組合)の労働協約 前文

帝人(株)、帝人ファーマ(株)と帝人労働組合とは、相互にその地位を尊重し、相協力して事業の健全なる発展と組合員の福祉を図り、産業平和を確立する目的をもってここに労働協約を締結し、双方誠意をもってこれを遵守することを確約する

(注)帝人労働組合との労働協約は、全ての帝人労働組合の組合員(正社員・嘱託社員)に適用されています