研究開発

環状カルボジイミド

新コンセプトの樹脂改質剤

テイジンの環状カルボジイミド

様々なポリマーの耐久性を向上させることは、そのポリマーの適用範囲を広げるという意味でも、また素材のライフサイクルを伸ばすことにより環境負荷を低減するという観点からも重要な課題です。テイジンはポリマーの耐久性向上のソリューションとして、新たなコンセプトによる樹脂改質剤「環状カルボジイミド」を開発しました。

カルボジイミド化合物によるポリマーの加水分解抑制

カルボジイミドとは、-N=C=N- であらわされる官能基であり、カルボジイミド基をもつ化合物はその優れた反応性から,様々な用途で使用されています。またカルボジイミド化合物は、ポリエステルをはじめとする汎用樹脂や、ポリ乳酸などの生分解性樹脂にとって大きな課題である加水分解を、分解反応の触媒となるポリマー中の酸を補足することによって抑制する効果があることが知られています。
一方で、従来のカルボジイミド化合物は、ポリマーに添加し溶融混練する際やそのポリマーを再溶融して加工する際に、刺激性や感作性の高い物質として知られるイソシアネートガスが発生し、排気設備など作業環境の対策が必要となるため敬遠される傾向がありました。

カルボジイミドによるカルボキシル基末端の封止

イソシアネートガス抑制のコンセプト

ポリマーの耐加水分解性の向上と、取り扱い作業性の両立という技術課題に対して、テイジンはイソシアネートガスが根本的に発生しないカルボジイミド化合物を開発することに挑戦しました。様々なカルボジイミド化合物を設計し、具体的に合成・評価を繰り返す中で、環状分子の骨格中にカルボジイミドを導入することで、ポリマーとの反応時に生成するイソシアネートが環状を構成する骨格を介してポリマー中に留まり、結果としてイソシアネートのガス化を止める、というアイデアが出てきました。

環状カルボジイミドによるカルボキシル基末端の封止

環状カルボジイミドの効果の検証

検討の結果、熱安定性の高い環状骨格にカルボジイミド基を導入することで、様々な樹脂に安定的に添加できる環状カルボジイミドを開発しました。この環状カルボジイミドを実際にポリ乳酸中へ添加した結果、耐加水分解性を大きく向上させることができ、またその効果は従来のカルボジイミド化合物よりも高いことが分かりました。(左グラフ)
さらに、カルボジイミド化合物を添加したポリマーの溶融状態でのイソシアネートガス発生を調べたところ、開発した環状カルボジイミドの系ではイソシアネートガスが検出されないことが分かりました。(右グラフ)

ポリ乳酸の加水分解性

カルボジイミド添加ポリ乳酸のGC-MS分析

環状カルボジイミド「カルボジスタ®」の市場展開

テイジンが開発した環状カルボジイミドは「カルボジスタ®」として2018年度より本格的に市場展開を行っています。「カルボジスタ®」は当初、ポリエステルやポリ乳酸の耐加水分解剤として市場から高いご評価をいただいていましたが、その後、耐加水分解性以外にも耐熱性や相溶性の向上など、様々なポリマーに対して特異な効果が発現することも明らかとなってきており、今後幅広い用途でポリマーの特性改善に役立つ材料になると期待されています。