SOLUTION

世界を支えるソリューション 02 安心・安全・防災ソリューション

第4の建築材料
「LIVELY WOOD」で、
森林大国に力を。

SUMMARY

強みである繊維による補強技術を木材に応用し、ハイブリッド集成材「LIVELY WOOD」を開発。環境、経済、建築など、多くの分野にまたがる課題を解決する。

DETAIL 01

日本の森を、
炭素繊維で救う。

 日本の国土面積のうち、約67%が森林です。さらにその18%がスギの人工林です。戦後の資材不足を解決するために大量に植林されたスギですが、すでに伐採適齢期を過ぎているにも関わらず、放置されているケースは珍しくありません。剛性の低いスギは建築構造材として使いにくく、安価で性質のいい輸入木材に需要を奪われてしまったためです。

 森林が手入れされなければ、洪水や土砂災害、二酸化炭素濃度の上昇といった環境問題につながり、林業、ひいては地方経済の衰退も招きます。2009年、農林水産省は「10年後の木材自給率50%以上」を目標に掲げましたが、2019年の木材自給率は37.8%。ゆるやかに回復してはいるものの、目指す姿には届いていないのが現状です。

 私は木材活用をテーマのひとつに掲げ、ソリューション開発に着手していました。その時、上司がこう教えてくれました。「テイジンは過去に、炭素繊維による木材の補強を検討していたことがある」と。ただし当時のテイジンは、素材(材料)を開発して加工メーカーや部品メーカーに販売するというビジネスモデルがメインでした。したがって木材加工、さらには建築物への活用というのは当時の事業戦略に当てはまらず、事業化までは至らなかったようです。けれど、ソリューションそのものを届ける今のテイジンなら、きっと実現できるのではないか。そう考えたことが、炭素繊維と木材のハイブリッド集成材「LIVELY WOOD」のスタートでした。

DETAIL 02

建築基準法との格闘。

 かつてトライしていたとはいえ、木材や工法、建築設計についての知見はテイジンの中にほとんど蓄積されていません。そこで、大学や外部の企業など、さまざまなパートナーとの共同研究に踏み切りました。そうして得られたノウハウに、テイジンがもともと強みとする繊維による補強技術を加え、スギと炭素繊維を複合させた集成材を完成させたのです。のちに「LIVELY WOOD」と名付けられたその集成材は、木材の2倍以上という剛性を実現。梁や柱のないオープンスペースを木造建築で可能にするなど、設計の自由度を飛躍的に高めることにも成功しました。

 しかし、いい新材料ができたからといって、すぐに受け入れられるわけではありません。厳格なルールの中で動く建築業界では、その新材料はどのような使い方ができるのか、そもそも建築基準法に適合しているのか、提供側であるテイジンがしっかりと示す必要があります。しかし、法律について私たちはまったくの素人。鉄・コンクリート・木材という3つの材料で成立している建築基準法に、いわば第4の材料である「LIVELY WOOD」がどうフィットするのかどうかも不透明です。

 途方に暮れていたところに手を差し伸べてくれたのは、法が指定する確認検査機関である日本建築センターでした。「新しい技術を認めていかなければ、木材活用は広がらない」。そんな想いで向き合ってくれたことから、「LIVELY WOOD」が広く世の中に届けられる可能性が出てきたのです。

DETAIL 03

テイジン、
「家」を建てる。

 プロジェクトへの追い風を受け、私たちはちょっと大胆な計画を立てました。実際に「LIVELY WOOD」を使って建物を建てることにしたのです。もちろん、建築基準法による認定も受けた上でのことです。しかし、問題は建築費用。とても研究開発費でまかなえる額ではありません。そこで、テイジンの創立100周年プロジェクトに組み込ませてもらうことにしました。100周年の年度内に必ず完成させるかわりに、そちらのプロジェクトから資金を捻出してもらう作戦です。無茶なスケジュールではありましたが、2月中に竣工、そして3月31日に建設会社からの引き渡しも完了し、無事年度内に完遂することができました。新材料を使った世界初の建築物としてお披露目され、「ウッドシティTOKYOモデル建築賞」では奨励賞を受賞。まだまだ駆け出しではありますが、事業として成立させ、チャンスをもらったお返しをしたいと思っています。

 建築基準法について言えば、今回は建物ごとに認定を受ける「個別認定」です。材料そのものが認められ、より汎用的に使いやすくなる「材料認定」を受けるためのストーリーを今、描いているところです。その後には、「LIVELY WOOD」の性能をさらに引き出す工法を確立し、普及させていきたいとも思っています。

 かっこいい言い方をしてしまうなら、最終的なゴールは「社会を変えること」。これまでの常識ではありえなかったような木造建築が街に生まれ、森林が息を吹き返し、そこで働く人が増える。実現ははるか先になるかもしれませんが、そんなビジョンを温めています。ゼネコンから小さな工務店まで、「LIVELY WOOD」にかける期待の声が届き始めた今、その声を力に、プロジェクトはさらに力強く突き進んでいくはずです。