帝人グループの技術と知見で、
前例のない手術用医療材料の開発に挑む。
先天性心疾患とは、生まれつき心臓やその周辺の血管に欠損部や狭窄部が存在する疾病です。多くの場合、患者さんが新生児や幼児のうちに、血行動態を改善するためにパッチ状の医療材料を用いて欠損部を補綴したり狭窄部を拡大したりする手術が行われるのですが、子供たちが成長していく中で、埋植したパッチが異物反応を受けて劣化したり、サイズが合わなくなったりして、手術部に狭窄が発生することがあります。そうなると、パッチを交換する再手術が必要となり、患者さんやご家族に大きな負担がかかってしまいます。この状況を何とかしたい、と考えた大阪医科薬科大学の根本慎太郎教授が、「自分の組織に置き換わることで、患者さんの成長と共に伸張するパッチ」のアイデアを打ち出しました。その後、福井経編興業が吸収性の糸と非吸収性の糸で編み上げた特殊な構造の経編(ニット)を開発したことで、成長とともに伸張するパッチの構想が固まりました。
その頃、帝人グループでも、私たちの素材技術や知見を特殊な性能や高い品質が求められる医療材料に活用したいと考えていました。そんな折、大阪医科薬科大学と福井経編興業の取り組みを知り、この製品の開発ができれば患者さんの生活の質を向上させられる、という強い思いの下で、プロジェクトに加わることにしました。とはいえ、帝人グループには手術で用いるような埋込型医療材料を開発した実績がありませんでした。私はプロジェクトマネージャーとして参画しましたが、製造管理のコンサルタントに、「経験の浅い企業がリスクの高い医療機器の開発を始めるのは、Tシャツを着てエベレストに登ろうとするようなものだ。」と言われたこともありました。その言葉通り、10年にわたる長い挑戦の日々が始まりました。