SOLUTION

世界を支えるソリューション 01 環境価値ソリューション

もっと軽く。もっと強く。
アメリカで追及した、
「Sereebo®」という自動車の未来。

SUMMARY

CO₂の排出抑制が喫緊の課題である自動車業界。鉄よりもはるかに軽く、耐衝撃性や耐腐食性にも優れるテイジンの複合材料「Sereebo®」を自動車の構造部材に導入するため、米国のカーメーカーと共同開発。

DETAIL 01

学生時代から夢見たテーマに、
アメリカで挑む。

 世界中で厳しさを増している自動車のCO₂排出規制。燃費を向上させ、CO₂排出を抑える代表的な手段のひとつが、自動車の軽量化です。テイジンは2008年から、熱可塑性樹脂を使用した炭素繊維複合材料の開発に力を注いできました。のちに「Sereebo®」ブランドとして展開されるその複合材料は、自動車の構造部材として使用すれば重さは鉄の約半分。2011年頃からは、採用してくれる自動車メーカーや部品メーカーを探し始めていました。ちょうど同じ頃、まさに炭素繊維による自動車の軽量化を検討していたのが、米国のゼネラルモーターズ(GM)です。2社の思惑が一致したことで、ピックアップトラックの荷台部分を「Sereebo®」でつくるための共同開発が始まりました。

 入社10年目だった私は、大急ぎでビザを取ってアメリカに渡りました。開発拠点になったのは、GM社とテイジンのメンバーが半々ずつ入居する建物。お客様であるGM社と生活をともにしながら、通訳を介することなく開発を行うという、なかなかチャレンジングな環境でした。

 一方で、自動車の軽量化というテーマには非常に燃えていました。私は学生時代、改造市販車によるスプリントレースに参加していました。その時に初めて炭素繊維を知り、エアロパーツを自作してみて、軽量化の恩恵を文字通り体感していたのです。GM社とのプロジェクトは、炭素繊維がもたらすメリットをいよいよ一般車にも広げられる、願ってもない機会でした。

DETAIL 02

複合材料の宿命に立ち向かう。

 当初の予定では、テイジンは材料から成形加工、荷台の設計や組み立てはGM社が行うという役割分担でした。最初にできあがったプロトタイプは、鉄でつくった荷台の設計をほぼ踏襲したもの。しかし、耐衝撃テストを行った結果は残念ながら不合格。ここに来て、テイジン側でも設計にトライしてみることになりました。

 一番の課題は耐衝撃性をいかに高めるかでした。ピックアップトラックの荷台である以上、セメントブロックや木材をショベルカーで積み込むような使われ方が大前提。一方で、一般的には縦方向の荷重に弱い複合材料をつかって壊れない荷台をつくるにはどうすればいいのか。材料、設計、成形など、各分野のメンバーが知恵を絞り、アイデアをぶつけ合いました。その中でも成功のカギになったのは、既存の複合材料に比べて縦方向の荷重に強い「Sereebo®」でした。「Sereebo®」の強さを土台に、樹脂も繊維も見直してさらなるタフさを求め、材料や設計の工夫も加えた結果、1号プロトタイプの3〜4倍という耐衝撃性を実現。晴れて、テイジンの設計が採用されることになりました。

 日本にいた頃は材料開発に集中していましたが、アメリカではその材料をどう使うか、さらに広い視野で考えることができました。自動車の軽量化という念願の仕事に携われたこともあって、非常に大きなやりがいを覚えました。また、お客様であるGM社とも、難題に取り組む「仲間」として、非常にいい関係性が築けたのではないかと思います。

DETAIL 03

世界初がもたらす笑顔を、
これからも。

 「Sereebo®」を採用したピックアップトラックは、2019年の夏から市場展開が始まりました。炭素繊維複合材料が、量産自動車の構造部材に採用されるのは世界で初めてのこと。その成果は、鉄に比べて約40%の軽量化、約10倍の耐衝撃性、腐食にも強く、成形もリサイクルもしやすいという画期的なものになりました。さらに、熱可塑性樹脂の射出成形による、約1分という成形時間も世界で初めて実現しました。

 プロジェクトを振り返ると、たくさんの笑顔が思い出されます。初めて成型品が形になった時。量産が決まった時。量産1号機がラインから生み出された時。業界の表彰を受けた時。そのたびに、GM社の方々が喜ぶ声を聞くことができました。パワーソースがガソリンから電気や水素に本格的に移行するなど、自動車のあり方が大きく変わっていく時代。軽量化を筆頭に、テイジンが貢献できるシーンは増えていくはずです。これからも、たくさんの笑顔を生み出せるようなソリューションを、世の中に届け続けたいと思います。