着る繊維から、
食べる繊維へ。
2014年、私はシリコンバレーにいました。目的は、マテリアルでもヘルスケアでもない、テイジンの次なる事業テーマを探索すること。世界でもっとも進んだテクノロジーが生まれる場所なら、有望なテーマが見つかるはずだと考えたのです。現地で驚かされたのは、食を手がけるユニコーン企業が次々と登場していたことでした。シリコンバレーと食。そのギャップも面白かったですし、これから食の世界で大きな変化が起こるのではないかという予感がありました。
また、世界中で腸についての研究が進んでいたこともヒントになりました。ヒトゲノム計画が2003年に完了した後、優秀な研究員たちが移った次のフィールドが腸だったのです。人体のブラックボックスである腸について解き明かすために、ヒトゲノム編集の技術を応用した腸内細菌の分析が行われていました。こうした動きを知るうちに、「人の健康を大きく左右する腸を、食という切り口から考える」というコンセプトにたどり着いたのです。
とはいえ、いきなり腸内細菌をプロジェクト化するのはハードルが高すぎました。かわりに着目したのが、菌のエサである食物繊維です。有用な食物繊維を与え、菌が出す代謝物をコントロールし、健康増進に繋げていく。このテーマを、「着る繊維から食べる繊維へ」というキャッチフレーズを添えてCEOに提案。ちょっと笑われましたが、無事に予算がつきました。